もう来ない

 しつこい女だった。

 別れ話を持ちかけたときに大泣きされたのにも困ったが、その後には更に困らされた。

 執拗に俺に付きまとい、警察沙汰になり、挙句の果てに面当つらあて自殺までされた。


 しかも事はそれで収まらなかった。

 それからも、あいつは毎晩やって来た。墓場の土からい出して、俺の家までやって来た。

 火葬されて骨になったはずなのにちゃんと肉がついていて、服を着込んで靴まで履いて、うちのドアをノックするのだ。

 夜明けまでドアを叩くそれは、おまけに日毎腐っていく。あまりの見た目の酷さに、ドアスコープを覗くのはやめた。腐臭もひどい。家を出ようとすると、辺りに残っているのが分かるくらいだ。


 けれど今朝、中身が入ったままのあいつの靴が、揃って家の前に転がっているのを見つけた。

 流石のあいつも、これでもう出歩けはしないだろう。きっともう来ないはずだ。

 靴はそのままゴミに出した。燃えるゴミの日でよかったと思った。

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