情けは人の為ならず

 夢を見た。

 友人の一人が、暗い道を何者かに手を引かれて歩いていく夢である。

 手を引かれているのは確かなのだが、手を引く者の姿はどこにも見えない。しかし彼は幸福そうな顔で、虚空と手を繋いだまま歩いていく。


「おい、行くな! こっちへ戻って来い!」


 直感のままにそう叫ぶと、友人はふっと気づいてこちらを見た。

 それだけの夢だったので、すぐに夢を見た事すら忘れた。



 翌日、その友人から電話があった。話は支離滅裂でさっぱり要領を得なかったが、とにかく俺が彼の幸福を阻害したのだという。

 二人一緒にいいところに行く予定だったのに、お前の邪魔でそれができなくなった。全部お前の所為だとヒステリックにわめきたてられた。

 仕事帰りで疲れていたのもあって、途中で面倒くさくなった。

 適当な相槌で聞き流していると、


「一生許さないからな。お前の時は絶対に俺が邪魔してやる。絶対にだ!」


 最後にそう息巻いて電話は切れた。

 結局何を邪魔したのか、邪魔するのかは分らないままだった。まあ、好きに頑張ってくれればいいだろうと思う。

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