祟る

 同級の豪傑氏が死んだ。

 空手の段持ちの強面こわもてであったが、しかし強きを挫き弱きを助く気のいい男でもあった。

 彼の死に場所は亡者の根城として名高い廃病院だった。そこへ肝試しにいった同校の馬鹿どもを助けに行き、二重遭難の憂き目を見たのである。

 馬鹿どもの半数は今も精神病院で笑っているが、うち半数は彼のお陰で事なきを得た。しかし豪傑氏は人気者であったので、彼らは学校中からうとまれた。


 さて、十名近い被害者を出したこの一件でますますその悪名を轟かせるかと思われた廃病院であったが、しかし豪傑氏の死後、唐突かつ自主的に崩れて更地のようになってしまった。

 祟られるからとどの取り壊し業者も施工を断るほどの物件であったのだが、それからはぱったり霊的な話の類も絶え、今では市の保養施設に生まれ変わっている。


 豪傑氏はかねてから、「悪霊に憑り殺されただの怨霊に呪い殺されただのと耳にする事がある。万一俺がそういう具合に殺されたとしたら、死後は必ず自らも御霊ごりょうとなって当の亡霊どもを成敗し、そして因果を含めてやる。特殊な立場におごって、人様に迷惑をかける輩は好かん」と口にしていた。

 であるからこれは前言通り、彼が廃病院のものどもを駆逐したのだろうと噂が立った。



 かの保養施設の日当たりのいい片隅に、彼をまつほこらがある。

 大した同級生であったが、よもや神様になるとは思わなかった。

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