置き手紙
冬山に独行した時の話だ。
新雪をラッセルしながら進んでいくと、降り積もったばかりのその純白の上に真っ赤なものが見えた。
それは女物のハイヒールだった。
足跡も何も残っていない雪の上に、今脱いだばかりのようにきちんと揃えて置かれていた。
その靴と靴の間に、一枚の紙片が挟まっているのが見えた。山風にはためきながら、それでも縫いつけられたような強固さでそこに留まっていている。
怖いもの見たさ半ばで近づいて広げると、おそらくは女の筆跡で「お母さんに伝えてください」と、それだけが記されていた。
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