脱出

 出勤ついでにゴミを出しに行ったら、大きな水槽が捨てられていた。

 中にはみっしりと玩具の兵隊が詰まっている。銃器で武装した軍服の彼らからは、勇ましさではなく哀愁あいしゅうが漂うようだった。

 そんなふうに感じたのは、きっと「味方に裏切られてた捕虜が連行されていく」なんてイメージが浮かんだからだろう。

 そこでひとつくしゃみが出た。冬の朝は寒い。珍しいものがあったからとて、ゴミ捨て場に長居する気にはならなかった。

 彼らについては忘れる事にして、コートのえりを立てて駅へ急いだ。



 帰途。

 またゴミ捨て場の前を通りがかったら、例の水槽は割れていて、中の兵隊達は消え失せていた。欲しがった誰かが持っていったのだろうか。

 しかし、違和感があった。

 細かくもまだ路上に残る、その破片の散乱具合。

 街頭に煌めくそれはどうしても、内部からの衝撃で割れ散ったように見えるのだった。

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