ひとりじゃない

 うちの会社の休憩室は、出る出ると言われ続けている。

 俺も数度黒焦げの女に出くわしていて、そんなものがいるはずはないという信条を投げ捨てる破目になった。

 たまりかねた従業員一同が、直訴というより強訴ごうそして、とうとう会社も重い腰を上げた。

 ある日唐突に坊さんがやって来て、長時間読経をしてから帰っていった。

 心霊現象について否定的な見解を述べていた連中までが揃って、ほっと安堵の顔をしていた。

 けれどその後、


「休憩室の男、いなくなってよかったよね」

「うん。あれ、本当に怖かったもん」


 そんな女子社員たちの会話が漏れ聞こえて、俺は思わず足を止めた。


 ──男?


 いぶかしく眉を寄せ、一瞬の後、まさかと気づいて確かめに行った。

 やはり、あの女はまだそこに居た。

 休憩室のドアから焼けただれた顔を半分だけ覗かせて、俺の事をじっと見ていた。

 そこに巣食うのは、ひとりきりではなかったのだ。

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