落書き
宿泊先は、随分と薄汚れた民宿だった。
安いツアープランに乗ったのだから仕方ない事とはいえ、やはり旅先の宿には期待を持ってしまうものだ。がっかりする気持ちは強かった。
だが文句を言っても部屋が豪華になるわけではない。どうせ一泊だけからと我慢するして、延べられた布団に潜り込む。
見上げた天井の落書きが目についた。
幼い子供の描くような稚拙な絵だったが、場所が場所だけに不思議に思った。脚立を持ってきたとしても、子供の背丈であそこに落書きをするのは難しいだろう。
では元々落書きがされていた板を、どこかから流用して天井にしたのかだろうか。ふっと血天井の話を思い出して嫌な気分になったが、やはり一晩の事だからと抑え込んで目を閉じた。
その夜、夢を見た。
子供はこちらには目もくれず、じっと天井を睨む。するとたちまちのうちに、すーっと胴が伸びた。例えるならば蛇花火のようだった。
そうして天井へ、一心不乱に落書きを始めた。描き仕上がったのは不格好な鳥の絵だった。子供が満足げに頷くと、すーっとその胴は元に戻った。
びっしょりと寝汗を掻いて目を覚ますと、もう朝だった。
旅先の心細さからあんな夢を見たのだろう。
やれやれと顔を拭って、それから天井を見上げて驚いた。
落書きがひとつ、増えていた。
夢で見たのと同じ、不格好な鳥だった。
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