覗かれる

 大掃除をしていると、押入れ奥の壁に穴が空いているのを見つけた。

 私の親指の爪くらいのサイズのそれは、まさしく覗き穴と呼ぶのにふさわしい。

 しかし、と私は家の構造を頭に浮かべる。この押入れの後ろは丁度玄関、下駄箱の辺りだ。

 それを裏付けるように穴は暗く、あちら側から光が入ってきている様子はない。覗いたところで薄暗い靴箱が見えるばかりだろう。

 そうは思いながらも、なんとない悪戯心で目を当てた。

 すると向こうは意外に明るい。そして不可解な事に、見えるのは靴箱ではなかった。

 長い筒越しのように狭い視界にあるのは誰かの背中だった。

 誰が、何をしている姿なのだろう。

 しばらく眺めて、やがてはっと気づいた。

 私に見えているのは、一心に穴を覗く、私自身の背中であったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る