安堵

 先週からバイトに入った女の子は、いわゆる不思議ちゃんだった。

 思考のテンポとリズム、歯車の具合が他人とはちょっぴり、でも確実に違う。

 誤解のないように明言しておくと、決して不快な子なのではない。かみ合わない齟齬は、しかし苛立ちではなく和みを生んで、結構上手く回っている。

 だが、その子が突然変な事を言い出したのだという。


「見られてる、っていうんですよ」


 バックルームで休憩中、そう切り出したのは同じシフトの後輩だ。


「窓の外にさかさまの男の人が張り付いてて、それこそ四六時中、自分の事をじっと見てる、って」


 ないですよねー、と彼女は笑う。

 また不思議ちゃんが変な事を言い出したと思っているのだろう。そこに悪口陰口の意図はなく、ちょっとした話題の提供、という感じだった。


「それはちょっとね。そんなの、あるわけないよね」


 だから話を合わせて微笑んで、私は同時に、心の底から安堵する。


 よかった。

 アイツの興味、私から逸れたんだ。

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