屋根の上
子供の頃の話になる。
俺の実家は一度立て替えをした。
今は2階建てだが、以前は1階平屋だった。
西側の庭に面した部分は縁側ではなく、南北に細長い部屋になっていて、そこのガラス戸を抜けて庭に出入りする事が出来た。
その西部屋にまつわる記憶だから、それはまだ俺が幼稚園か、或いは小学校低学年の時分の事になるのだろう。
夕方、何の気なしにぼけっとその西部屋から庭を眺めてら、庭向こうの家の屋根の上で、人が踊っているのを見えた。
瓦屋根の上に三人。
ひとりは金袴に白髪。ひとりは黒袴に白髪。もうひとりは鼓を持って、当時の俺は知らなかったが、それは丁度歌舞伎か能のような風情だった。
さして広くもない瓦積みの上で、金袴はくるくると、臆する風もなく舞っている。
見栄を張るわけではないが、恐怖心は少しも起こらなかった。ただ子供心に「もし落ちたら危ない」とだけ強く思った。
慌てて声を上げるが誰も来ない。
確か父母が共働きしていた時期だったから、家には俺と祖母しかいなかったのだろう。そして祖母は耳が遠かった。
堪りかねた俺はガラス戸を開け、
「そんなところで踊ってると危ないよ!」
そう声をかけた。
けれど三人は馬耳東風で舞い続けている。
やはり子供の言いでは駄目なのだ。
俺は祖母の姿を求めて部屋を走り出て、しかし不在なのを確認して、項垂れながら西部屋に戻った。
再び見上げた屋根の上には、もう誰もいなかった。
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