手形

 祖父が危篤との報が入り、急ぎ帰省する事になった。

 夜を徹す覚悟で単身車を飛ばしていると、突然ばしんと大きな衝撃があった。一瞬にして肝が冷えた。視野には何も入らなかったはずだが、何を撥ねたのかと慌てて停車して外に出る。

 しかし道のどこにも、何も見当たらなかった。事故の痕跡など少しもない。周囲を見回し声を上げてみるが、夜闇と虫の声が返るばかりだ。

 首をかしげつつ座席に戻りかけて、そこでルームライトに照らされたそれに気付いた。


 ボンネットの上に、べったりと泥をまぶしてから叩きつけたような手形がついていた。丁度人間が真上から掌を叩きつけたようだった。五本の指の痕跡が、きっちりと見て取れる。

 それにしても、と疑問を抱かずにはいられない。

 軽とはいえ車のボンネットを覆って余りあるサイズの掌の持ち主というのは、一体どういう存在であるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る