堺の推理


「この事件を最初から考えてみたのよ」

と堺はおのれの椅子に腰掛け、語り始める。


 晶生は後ろのソファに座り、美乃は立ち上がって、なにかを探してウロウロしていた。


 美乃が、

「ま、いっか」

と呟き、自分のデスクにあった、いつのだかわからないお茶が入ったマグカップを手に取る。


 ザラザラと出してきたサプリを美乃がそのお茶で飲もうとしたとき、


「そしたら、すぐに結論は出たわ。

 犯人は美乃、あんたよっ」

と堺が言った。


 美乃が吹く。


「いたっ」

と降ってきたサプリに、堺が頭を押さえた。


「あんた、どんだけサプリ飲んでのよっ」

と堺も立ち上がり、文句を言い出す。


「はあ!?

 コラーゲンにハトムギに、エクオールにルテインっ。


 美貌と健康を維持するためには、いっぱい飲まなきゃいけないものあるでしょうっ?」

と美乃はよくわからないキレ方をしていた。


 いや。

 今の堺さんの発言により、キレるべきところは、そこではない気がするのだが……。


「あのー、堺さん。

 なんで、美乃さんが犯人なんですか?」

と訊いてみた。


「よくぞ訊いてくれたわ、晶生」


 はあ、美乃さん自身が訊かないので仕方なく……。


「警察はまだその事実をつかんでいないようだけど。

 美乃はあの刺された男に恨みがあったのよ」

と言い出す堺に、


「……その事実は私もまだつかんでないわね」

と美乃が言う。


「前の男にフラれた美乃が、すがるように恋に落ちたのがあの刺された男だったんだけど。


 美乃はまた、その男にも手酷てひどくフラれてしまったのよ!」


 美乃は堺のデスクのペン立てをガチャガチャやり始めた。


「ねえ、さっきの縁切りのハサミは何処?

 ああ、もっと鋭い奴の方が殺傷能力があるか」

と呟いている。


「美乃、あんたがあの神社に行ったのは、前の男との縁を切るためじゃない。

 自分を裏切った新しい男を殺すためだったのよっ。


 そして、アリバイ確保のために私を利用した。


 あんたは私が男子トイレに行った隙に、呼び出しておいた男を女子トイレの個室で刺し、水で凶器の血を流すと、素早く外に投げ捨てた。


 ハサミは祀ってある場所から適当に一本失敬したんじゃないの? 足がつかないように。


 そこで私がトイレから出てきて、そのハサミを見つける。


 ハサミが泥まみれであることに気づいた私は、丁寧に除菌クリーナーで拭って元の場所に戻した。


 そのとき、あんたの指紋が消えたのよ。


 除菌クリーナーで私がハサミを拭ったのは偶然じゃないわ。


 あんた、私が手水舎で手を洗いそびれたと言ったとき、除菌クリーナーで拭けば? って言ってきたわよね?


 あんたは、あの言葉により、私が汚れたものを見たとき、除菌クリーナーでぬぐいたくなるよう誘導したのよっ。


 そして、私がそのハサミをお供え物のハサミの山の中に戻すのを待って、私を呼ぶと、血が流れてきたと訴え、男が居る個室のドアを開けさせたのよっ」


 一息に堺が言うのを待って、美乃が言った。


「あんたよくそこまで見事に友だちを犯人にできるわね」


 しかも、私が聞いてもそれっぽい!

と美乃は言う。


「なによ。違うの?」


「違うわよっ」

と怒鳴られた堺は晶生を振り向き、


「晶生、なんとかしなさいよ。

 友情のピンチよ」

と言ってくる。


 いや、今、あなたが自分でピンチにしたんですよね……?

と思いながら、晶生は思わず、


「でもまあ、確かに微妙に辻褄が合ってますよね」

ともらして、


「晶生っ!

 なに言ってんのよ!


 あんた、仕事取ってくるわよ!」

と美乃に脅される。


 ひい。

 どんな脅しだ……。


 堺さんと並んで怖い、と晶生は美乃を見上げた。


「えーと、まあ、とりあえず、一箇所違いますよね。

 そのお供え物のハサミの山の中に凶器はなかった。


 だって、除菌クリーナーで血液反応を消すことは出来ませんからね」


「そうね。

 そんなすごい除菌クリーナーなら、血痕を消す際は、ぜひ、携帯してくださいってCM打ってるわよね」


 打たないと思いますね、そんな怪しい広告……。


「堺さんが山に戻したハサミが凶器でなかったのなら。

 そのタイミングで、たまたまハサミが落ちてたってことになるんですかね?」


 それか、と晶生はチラと堺の鞄を見る。


「さっきのハサミがそのハサミの可能性もありますね。

 まあ、除菌で拭かせておいて、堺さんの鞄に戻すのは意味がわかりませんが」

と言いながら、晶生は今度は美乃を見る。


「だーかーらー、私じゃないってばっ」

と美乃が叫んだ。


「社長、社長ー。

 この子なんとかしてくださいー」

と美乃は何故かなぎさに助けを求める。





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