また怒られそうだ……
「あの」
と声がし、街灯から少し外れた位置に立つ石塚南央と目が合ったとき、その後ろに居る、あの長い髪の女とも目が合った。
この女は霊らしいギョロついた目でこちらを見たが、次の瞬間、篠塚と目が合ったようだった。
「こんばんは」
なんとなくという感じで、篠塚が彼女に挨拶する。
すると、
「やだっ、霊っ!」
とちょっと恥ずかしそうに彼女は言い、ふっと消えた。
「しーのーづーかーさ~んっ?」
「えっ?
僕、なにかしましたか?」
と篠塚はわかっていないらしく、訊き返してくる。
南央の後ろの女の霊は、霊らしく、恨みがましい目でこちらを見たときに、同じ霊の男に、
「こんばんは」
と生きているときのように声をかけられてしまったので。
やだっ、と乙女らしく恥じらい、消えてしまったのだ。
「……生きてる人間の男に、うらめしやって言うのはいいけど。
同じ霊の男に言うのは、恥ずかしいのかしらね?」
と晶生は呟く。
霊にとっては、生きた人間は、猫とか犬くらい種族が違っていて。
死んだ人間なら、自分と同じ、ということなのかもしれない。
まあ、霊それぞれだが。
きっと、彼女にとっては、道端で会った見知らぬ男をうっかり睨みつけたくらいの感じなんだろうな、と晶生は思う。
しかし、そんなことより気になるのは、南央が少し怯えているように見えることだった。
いきなり誰も居ないところを見て、晶生が話し出したせいかもしれないが。
晶生には、今、篠塚、という名前を出した途端、南央がビクついたようにも見えた。
「石塚さん。
貴女、
と言うと、南央の顔が青ざめる。
「実は私、霊が見えるんです。
今、此処に、篠塚さんの霊が居ます」
いきなりたいして面識もない女子高生がそんなことを言ってきたら、胡散臭いことこの上ないと思うのだが、南央は硬直した表情のまま、疑うことなく、晶生が手で示した場所を見ている。
篠塚の名前が効いているからのように思えた。
「私は篠塚さんから、すべて聞いています。
ご自分からも少し話して、楽になりませんか?」
そうやさしく語りかけたが、南央の後ろでは、沐生が、
おいおい。
なんにも知らないだろうが、お前も篠塚も、という顔をしていた。
だが、実は人がいいのかもしれない南央は、あっさり騙されてくれた。
「そうなんですか……。
すべてご存知なんですね」
と俯き、南央は語り出す。
恵利が居たら、
「なんですか。
また手抜きですか。
自分で推理してくださいーっ」
と叫び出すところかもしれないが。
「殺すつもりはなかったんです」
ぽつりと南央はそんな言葉をもらす。
……誰を?
と一瞬、思ってしまった。
いや、まあ、たぶん、あの人を、だろうが。
と思いながらも、そんな逡巡を彼女に見せることなく、晶生は訊いた。
「でも、殺してはいないんですよね?」
はい、と南央は俯いたまま頷く。
「ちょっと脅そうと思って、後をつけてたんです。
篠塚さんの――」
そう南央は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます