まずいことになりました……
テレビ局の廊下を歩いていた沐生は、
「あ、沐生さん」
とすれ違った笹井に声をかけられる。
さっきから見えていたのだろうに、近くに来るまで声をかけるのを待っていたようだった。
自称、盲目の霊能者、笹井。
すれ違うほど近くに来たら、匂いでわかったとか言い訳出来るのだろうが、離れていたら、こちらが喋らない限り、声をかけてくることは出来ない。
「沐生さん、すみません」
と笹井は小声で言ってくる。
いや、俺の方がすみませんだが、カップ麺にサインなんぞさせて……。
失礼だろうと晶生にめちゃめちゃ怒られたと言うべきか、と思っていると。
「実は――
遠藤さんのホテルが解体されるらしいんです」
笹井の顔を見つめると、彼はサングラスの中から、一応、視線を合わさないようにしながら言ってくる。
「一応、解体したら、呪われるホテルだと広めてみたんですが。
もう持たせられないみたいです。
かなり古くなっていて、危険ですしね」
「いや……ありがとうございます」
本来なら、撮影が終わってすぐ解体される予定だったホテルだ。
笹井のお陰で此処まで持たせられただけだ。
「これであとは、沐生さんたちの映画が大ヒットするしかなくなりましたね」
なにっ?
「だって、そしたら、観光スポットになって、ホテルは補修されて残されますよー」
と笑顔で言ってくる。
なにプレッシャーかけてんだ、こら、と思いながら、
「……笹井さんが更になにか恐ろしい霊が居ると広めたらいいんじゃないですかね?」
笹井さん自身が倒れてみるとか、と脅すように言ってみると、
「いやー、私、芝居下手なので。
あ、芝居と言えば、うちの姪が沐生さんの大ファンなんですよー。
最近親しいって言ったら、狂喜しちゃって。
可愛い姪なんですよー。
……サインください」
カップ麺にか、と思いながらも、世話になっているので、一応、サインした。
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