なに逃げてんのよ


 



 あの女の霊、居ないな、と思いながら、晶生はなんだかんだで揉めている三人の話を聞いていた。


 しかし、堺はなにやら気もそぞろのようにも見える。


 ちょっと投げやりな感じで返事をし、違うことを考えているようにも見えた。


 時折、何故か、胸許に手をやってみたりしている。


 なんだろう?


 なにが気になっているんだろうな、と思いながら、晶生が眺めていると、堺はそれに気づき、

「なに見てんのよ」

と威嚇してきた。


「あー、いえ、別にー」

とかよくわからないことを言って誤摩化そうとしたのだが、堺は、


「いやいやいや。

 あんた、今、なんだか熱い瞳で私を見てたわ」

と言い出す。


 熱い瞳ってどんな瞳だ……と思いながら、近づく堺から、晶生は本能的に逃げてしまう。


 だが、

「なに逃げてんのよ」

と言う堺に手首をつかまれた。


 いやいやいや、とまた、意味のないことを言いながら、晶生が苦笑いして後ずさり、真田が、

「堺さん、やめてやってくださいよ~」

と言って、堺の腕を引っ張り、後ろに下げようとしたその瞬間、


「俺がやりましたっ!」


 いきなり、誰かが部屋中に響き渡る声で叫んだ。


 ええっ? 誰だっ!?

と全員が周囲を見回す。


 すると、堺の後ろ。


 ベッドの上で、点滴の管につながれた男が起き上がり、一点を見つめていた。


 鬼気迫るその形相に、晶生が、ひーっ、と思ったとき、ぱたりと男は倒れてしまう。


 そのまま、また意識を失ったようだった。


 寝ている男を見ていた堺は、再び、男に背を向けようとする。


 土下座の霊がまた、寝ている男の上に被さるように。


 腕をつかんで晶生は止めた。


「や、やめてあげてください……。

 この人の身体に障りますから」


 そう言いながら、

 今度はなにをやった人なんだ?

と男を見つめた。






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