時代劇か……
「君を突き飛ばしたあと、自殺でもしてたら、君の近くか、この辺に出そうだものね」
と言う晶生の言葉を聞きながら、真田は思う。
そうか。
霊なら、望んだだけで、その人の側に行けるものなのか。
ならば、もし、俺を突き飛ばした人が後悔のあまり、自殺でもしていたとしたら。
自分が死んでしまったあとで、俺が元気で生きていると知ることになるわけだ。
晶生が少し心配そうに、
「この近くで別の事故があったみたいだから、そっちを自分がやったと勘違いしてないといいけど」
と言う。
「まあ、時間もちょっと違ったみたいだけど。
人間、錯乱してるときは、考え込みすぎて、思考が飛んだりするものね」
そう呟く晶生の顔を見て、
「お前でも錯乱することあるのか?」
と問うてしまう。
「……あるわよ」
なに言ってんの、と晶生は淡々と言ってくる。
いや、だからさ。
いつもそんな風だから、取り乱しているお前がちょっと想像できないんだが、と思っていると、それが伝わったのか、
「はたから、どう見えてるかは知らないけどね」
と言ってきた。
「でもさ、霊も波長が合う合わないがあるんだろ?
此処にその女の霊が居ないからって。
たまたま俺とその女の霊が、波長が合わなくて見えないだけってこともあるんじゃないのか?」
と訊くと、
「でも、二人居るから」
と晶生は言ってくる。
「真田くんと私は波長のタイプが違いそうだから。
二人ともに見えないとなると、ただ波長が合わないだけ、という確率は下がるわよね」
「……お前と沐生は同じ波長のような感じだな」
と含みを持たせて言ってみたが、
「いや、それが私に見えるものが沐生に見えてなかったりもするのよ。
まあ、見えないフリをしているだけかもしれないけど」
と言って、また肩に手をやっていた。
そして、不安そうにそこを見る。
なんなんだ? と思ったが、晶生は、すぐにこちらを見、
「心配なら、堺さんか沐生にでも確認してもらおうか?」
と言ってきた。
「いや……結構です」
と何故か敬語で答えてしまう。
どっちも嫌だが、より来て欲しくないのは、堺さんだな、と思っていた。
人前では遠慮がちなうえに、シャイな感じのする沐生と違い、堺は女性風のなりをしていることもあり、晶生に平気でベタベタしてきそうだからだ。
それとも、単に堺を苦手と感じるのは、あの容赦ないツッコミ口調のせいだろうかな、と思いながら、晶生についてあの店まで歩いた。
「あっ、うっかり……
うっかり晶生さん、こんにちはー」
と例の店員が何故かカップ麺を手に言ってきた。
なにかを言いかけ、晶生の顔を見て言い換えたようだが。
うっかり晶生ってなんだ。
うっかり八兵衛みたいになってるが、と思いながら、松木恵利という名の、ちょっと可愛らしいその店員を見た。
晶生より年上のようだが、店員だからというだけではなく、何故か、晶生に対してへりくだっているように見える。
こいつになにか尊敬すべき点があるだろうかな、と思いながら話している二人を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます