全然笑うところではない





 晶生……。

 来たと思ったら、すぐ帰りやがって、とひとり病室で、真田はいじける。


 戻ってきたのは、おっさん一人。


 林田さえ、何処かへ行ってしまったようだ。


 無言で椅子に座る堀田との間に、気まずい時間が流れた。


「……なんか食うか」


 間が持てなかったらしい堀田が急にそんなことを言ってくる。


 真田は反射的に、

「カツ丼はいりません」

と言っていた。


 食べた瞬間に、なにかの犯人に仕立て上げられそうな気がしたからだ。


 莫迦か、と堀田は言う。


「メシ出るんだろうが、此処。

 アイスかなにかいるのかって訊いてんだよ」


「あ、はいっ。

 ありがとうございます。


 って、俺、食べていいんでしたっけね?」

といつの間にか側に居た看護師さんを振り向き、訊いてみた。


 白衣を着た彼女は、こちらに背を向け、点滴をチェックし、なにか書き込んでいるようだった。


 そのとき、

「お前、誰に訊いてんだ?」

と堀田が言ってきた。


 は? と真田は堀田を見、看護師を見上げる。


 彼女はいつまでも、バインダーらしきものになにかを書いていた。


「だ、誰って……。

 こ、此処に居る、看護師さん……に」


 途中でつまってしまったのは、なにやら嫌な予感がしたからだろうか。


「何処に居る? 看護師が」


「居ますよっ、此処にっ。

 居るじゃないですかっ、はっきりとっ」

と両手をその存在を示すように振ったが、そのとき、もうわかっていた。


 自分のそのオーバーリアクションにも彼女が振り向かなかったからだ。


「お前……。

 須藤晶生でさえ、霊の話をするときは、もうちょっと気を使って、前振りしてから言うぞ」

と堀田は眉をひそめる。


「いやいやいやっ。

 俺、晶生たちとは違いますからっ。


 生まれてこの方、なんにも見たことないですしっ。

 

 わかったっ!

 最近流行りのドッキリですねっ」


「病院でやんねえだろ。

 死にかけて事故から生還した奴に、霊が見えるドッキリとか趣味悪すぎだろ」


 でも……という真田の声は掠れていた。


「でも、居るんですよ、此処にっ。

 白衣を着た看護師さんが背中向けてっ!」


「莫迦」

と堀田は言った。


「此処の看護師の制服はピンクだ」


 真田の心は遠くに行きかけた。


「あ、そっかー。

 これ、夢なんですよねー。


 それか、俺、もう死んだとかー」


 ははは、と全然笑うところではないのに、真田は笑う。


「そうそうそう。

 これ、夢なんですよー。


 そういや、今日は晶生とデートする夢見たんだった。


 晶生、何処行ったんですか? 晶生」

と言い出すと、堀田が溜息をついたあと、同情気味に言ってきた。


「坊主……。

 もう一回、CT撮ってこい」





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