残念な人が来ました

 



「あー、死ぬかと思った」


 病院のベッドで真田はそんなことを言う。


「意外と死んでるのかもよ」


 放課後、見舞いに来た晶生がなんとなくそう言うと、

「死んでねえだろっ。

 今、お前としゃべってるんだか……っ」

と叫びかけて真田は気づいたらしく、堀田の方を向いて訊く。


「俺、見えてますよね? 堀田さん」

と何故か話を訊きに来た刑事にすがっていた。


 堀田は腕を組んだまま、真田を見下ろし、

「生きてようが死んでようが、今すぐ状況を詳しく思い出してしゃべれ」

といつもの調子で言っている。


 鬼か……と思い、苦笑した。


 事故に遭ってから二時間くらい、真田の意識はなかったので、そのあとしばらく警察も面会謝絶だったのだ。


 車が気づいて、ギリギリで避けてくれたので、大事に至らずに済んだのだが、下手したら死んでいた。


「でも、その突き飛ばした女性が心配ですね。

 真田くんを殺したと思って、思いつめてないでしょうか?」


 そう俯きがちに晶生が呟くと、真田が、

「あのー、俺の心配もしてくださいよ、晶生さん」

と顔を見ながら言ってくる。


 だが、堀田は、大丈夫だろ、とそっけなく言ってきた。


「目の前で人が刺されたのを見たのに名乗り出ず、こいつが車道に落ちたのも置いて逃げたような女だろ」


「ものすごい小心者なだけかもしれませんよ」

と言うと、そんな小心者迷惑だろ、と頭から道路に落下したせいで、意識のなかった真田を見、堀田は言う。


 実は堀田さんが一番心配してるのかもな、と晶生は思った。


 横で溜息をつき、

「また殺人事件じゃないじゃないですか」

と不謹慎なことを呟く、林田よりも。


 晶生の後ろに腕を組んで立つ堀田は、真田に、

「お天道様おてんとさまに助けていただいた命だ。

 これからは心を入れ替えて、真っ当に生きろよ」

と言って、


「あの、俺、犯罪者じゃありませんからね」

と言われていた。


 晶生は堀田を見上げ、

 助かってよかったな、的な言葉をかけたかったんだろうに。

 沐生並みに不器用な人だなー、と思っていた。


 そして、ふと思う。


 この人が今も自分たちにこだわり続けるのは、もしかしたら、親切でやってることなのかもしれないな、と。


 罪を隠したまま生きる子どもたちをなんとかしてやりたくて、なのかもしれないが。


 でも、堀田さん、と真田に女の特徴をしつこく訊いている堀田を見て思う。


 罪から解放されたくない人間も居るんですよ―― と。





「では、私はこれで失礼します」

と病室の外で晶生は堀田たちに頭を下げる。


「まあ、あんたもなにか思い出したことがあったら、言ってきてくれ」


 堀田がそう言ったとき、林田が、あ、と晶生の後ろを見て言った。


「残念な人が来ました」


 なんとなくその言葉に、堺を連想したが、振り返ると、やはり堺だった。


「……なんで残念な人なんですか?」

と堺がこちらに近づく前に林田に問うと、


「いやー、あんな綺麗なのに、男だとか」


 非常に残念です、と林田は頷いていた。


 自分の思う残念とは意味が違うようだ、と思ってると、その堺が、

「晶生ちゃん、真田くん事故に遭ったんだって?」

と言いながらやってきた。


「地獄耳ですね」

と呟くと、


「いやー、たまたま現場見てた例の映画のスタッフが居て、耳に入ったのよー。


 心配して来ちゃった。

 晶生ちゃんも今からお見舞い?」

と訊いてくるので、


「いえ。

 今から帰るところです」

と言うと、


「じゃあ、送っていくわ」

と言い出す。


「……堺さん、真田くんのお見舞いに来たんですよね?」


「そうよ。

 でも、貴方がもう帰ろうとしてるってことは、大丈夫だってことでしょ。


 さあ、帰りましょう?」

と腕を組んで、引っ張っていこうとする。


 ……堺さん、せめて、一目でも顔見てやってください、と思っていたが、相変わらず、力が強いので、そのまま引きずられて行った。





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