実は、此処に居ます VI


「興味がなかったんですよ、彼には。

 うちの娘が苦しんでいようと、浮気相手のお嬢さんが悩んでいようと」


 人の心がわからないから何度でも同じことを繰り返す。


 誰の苦しみもわからない、と田所は言った。


「でも、田所さん。

 駄目な男が好きな女ってのは、居るんですよ。


 少なくとも、今、此処に二人……」

と晶生は扉の方を見る。


 いつの間にか再び開いていた扉のところに、真奈美と凛が並んで立っていた。


「いや、三人ですかね」

と晶生は少し上を見上げ、自嘲気味に呟く。


 沐生が聞いていたら、なにっ? と言うところだろう。


「お宅のお嬢さんのところにも、凛のところにも彼は現れない。

 自分の死体があった場所にも現れない」


 田所さん、と晶生は彼を見た。


「何処で殺したんですか?」


「いや、あのダムですよ」

 さらりと田所はそう言った。


「あそこまで連れて行ったんです」


 思わず顔を覆った真奈美の肩に、凛がそっと手を置いていた。

 労わるように。


 同じ男に振り回された者同士、わかり合える部分もあるのかもしれないと思った。


 もし、沐生になにかあって、沐生の芸能界での恋人とか出てきたら……。


 いや、なにもわかり合えない。


 私、凛より心狭いな、と晶生は思う。


「そうですか。

 では、あのダムが篠塚さんにとっては殺された場所であり、自らの死体が遺棄された場所でもあるわけですよね?


 そんな因縁のある場所にも出ない。

 恋人たちのところにも出ない。


 彼はなにに執着しているのでしょう。

 堺さん」

と呼びかけると、腕を組んで聞いていた堺がこちらを見上げてきた。


「堺さんなら、死んだら何処に行きますか?」


「あんたのとこだって言ったじゃない」


 いや、今、そういう話じゃなくて……と思っていると、遠藤が足許で、

「思ったように、推理が繰り広げられないな」

と笑う。


「遠藤は死んだら……

 ああ、此処に居るのか」


 もう死んでたな、と溜息をついた。

 凛がなにが居るのよ!? という怯えた目でこちらを見ていたが、とりあえず、無視した。


 ますます話が進まなくなるからだ。


 そう思ったとき、

「私……」

と真奈美が顔を上げて言った。


「私だったら、パパとママのところに居るかも」


 真奈美、と田所が振り返る。

 感動的にも見える光景を前に、水を差すように凛がぼそりと呟いた。


「あの人に裏切られた今となっては私もそうかも。

 でも、篠塚さんがママの側にベッタリ居たら、それは嫌かも……」


 真奈美が振り向き、

「わかるわ、それ」

と言う。


 まあ、確かに、死んでまでマザコン、みたいで嫌なのだろうな、とは思うのだが。


 女の子だといい話になるのに、男だとそういう解釈になってしまうのは何故だろうな、と思っていた。

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