そこに居ます VIII

 



「私、堺さんとキスすればよかったかしら」


 いろいろ思い悩んだ晶生は、つるっとそんなことを口走ってしまった。


 晶生の部屋で適当に手に取った本を読んでいた沐生が渋い顔をして、晶生を見る。


「ああ、ごめんなさい。

 キスして、話を聞き出せばよかったかなってこと」

と言ったが、


「ごめんなさいが意味をなしてないが」

と言われる。


「堺さんがなんか言ってたのか?」

と沐生に問われた。


「キスしたら、堺さんの知ってることを話してくれるらしいんだけど」

と言うと、


「話すわけないだろ。

 お前が襲われて終わりだ」

と本に目を落としながら沐生は言うが、先ほどから、ページをめく

っているような様子はなかった。


 誤解のないように晶生は言っておく。


「別にキスを軽く見てるわけじゃないのよ。

 でも、堺さんが話そうとしていることが、私のキスなんかに見合うことではないような気がしたから」

と言うと、


「私のキスなんかってなんだ」

と渋い顔をされる。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る