霊の居処 VI

 ダムに続く林に人影が見えた。


「止めてっ」


 晶生が思わず声を上げると、

「はっ、はいっ」

と澤井が急ブレーキを踏む。


 後続車が居なくて幸いだった、と思いながら、晶生は車を降りた。


「あの……どうかしたんですか?」


 そう言いながら、おそるおそる澤井も降りてくる。


 ひとりで車に乗っているのも怖かったのかもしれない。


 晶生は無言で今来た道を戻っていこうとしたが、何故か足が動かなくなる。


「……晶生」

 すぐ耳許で、あの霊が囁くのが聞こえた。


 晶生はひとつ溜息をついて言う。

 

「あのー、運転手さん」

「は、はい」


「あの人、呼んできてください」


 えっ? 人? と澤井は辺りを見回す。


 晶生は此処より少し先。

 林のせいか月明かりも届かない場所を指差し、言った。


「そこのガードレールのところ。

 ダム沿いの林を覗き込んでいるおじさんですよ」


 そこで、目を細め、

「見えますか?

 生きてますよね、あの人」

と確認するように言う。


 澤井は、晶生の言うそれが霊であったら怖いと、そこに居なくとも無理やり見ようとするように、目を細める。


「見えましたっ。

 僕に見えるんですから、生きてますよねっ」


「……いや、貴方に見えても霊かもしれませんけどね」


 そこで下を見て、晶生は言った。


「まあ、今、私の足を掴んでいる人は生きてないですけどね」

と後輪の前を通ったせいで、タイヤに巻き込まれてたように引っついていた男に掴まれている足を見下ろす。


 ひいいいい、と澤井は、もしかしたら、生きているかもしれないダムの男の方に向かって走っていった。


 生きてる人間の方が安全とは限らないんだが……。


 そう思いながら、晶生は自分の側に居る霊の気配を窺う。


 彼はただ俯いて、動かない。

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