それが目当てじゃありません II




「オーダーストップ間際じゃない。

 せっかく来たのにーっ」


 駅近くの石畳を走りながら、堺が文句を言う。


「店の裏の駐車場からこんなに距離があるなんてわかってたら、あんたたちだけ先に降ろしてたのに。


 もうっ。

 走って、晶生っ」


「なんで私に言うんですかっ」


 一番トロそうだからよっ、と堺が叫ぶ。


「私は、あの、飴細工ととろーりチョコの乗ったパフェを食べるんだからっ」

とタブレットで確認したメニューについて熱く語る。


「さっき、スイーツ興味ないって言ったくせにっ」


「晶生、手っ!」


 はい? と言う間もなく、堺は晶生の腕を引っ張り、自らの肩に回させると、いきなりお姫様抱っこをしてきた。


 そのまま、猛ダッシュをかける。


 なるほど、私が全体を遅らせていたようだ、と思ったのだが、まだ人の多い夜の街で、これは恥ずかしい。


「さ、堺さんっ」

と叫んだときには、もう店に着いていた。


「こんばんはー。

 まだ大丈夫ー?」


 自動ドアが開くと同時に、堺はそう微笑んで、晶生を店内に下ろす。


 堺に微笑まれた男の店員が、

「だ……大丈夫ですよ」

と引きつった笑いを返していた。


 剛力な美女だと思っているようだった。


 いや……男なんですけどね。


 この人、こういうとき、どっちなんだか微妙な自分の外見をいいように使うよな、と思っていた。


 店の時計を見ると、オーダーストップの時間は明らかに過ぎていたのだが。


「晶生ちゃんっ」

と何故か、凛たちの後ろから、林田が現れる。


「どうしたんですか?」


 見ると、店の前の路上に林田の車が止まっている。


「いや、堀田さんがやっぱり行けって。

 あのっ、僕、車止め直してきますけど、まだ、大丈夫ですかっ」

と真剣に店員に訊いている。


 ……あんたもか、と思った。



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