立ち寄らなくてもいいのに、立ち寄ってみたダムのほとり II

 


「なにしに来たんですか、堺さん」

 近づいた途端、晶生がそんな小憎らしい口調で言う。


「沐生が勝手に消えたから来たのよ」

と言うと、沐生が、プライベートまで見張ってんなよ、という顔をした。


 晶生の側に行き、

「……邪魔してやる」

とぼそりと言うと、晶生は溜息をつき、


「事件の現場を見に来ただけですよ。

 それから、口調が男の人になってますよ」

と小声で言ってきた。


「あらそう」

と腕を組み、そっぽを向く。


「此処で死体が上がった事件?

 誰が殺したの?」


「いや、それを調べに来たんじゃないですか。

 でも、少なくとも凛じゃないですよ。


 凛はこんなところまで死体を運んでこられないから」


 そこで堀田が口を出してくる。


「父親とかが運んだのかもしれないだろ。

 此処で殺して沈めたのかもしれないし」


 だが、晶生は、ダムの方を見ながら、

「……簡単に上がってくるもんですね、死体って」

と妙な感心をしていた。


「重石つけない限り上がってくるだろ」

と堀田が言っている。


「じゃあ、計画的な犯行じゃないかもしれませんね」


 そう呟きながら、別のことを考えているようだった。


 そうだ。

 晶生も計画的な犯行ではなかった。


 車ごと沈んだのならともかく、人間だけなら、死体は上がってくる可能性の方が高かったはずだ。


 晶生は水面を見つめている。

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