あまり立ち寄りたくないダムのほとり IV
「須藤晶生。
お前だったら、どっから投げ捨てる?」
堀田が晶生にそう訊いてくる。
「いやー、投げ捨てたことはないんで」
自分が囮になって、落ちるように仕向けたんですよ、そこの斜面から、とチラと少し先を見る。
そこだけが、急斜面の崖のようになっている。
今はガードレールがあるが、当時は、ちょうど、事故のあとで、ガードレールが湾曲して、下に向かって外れていた。
勢いがついて、私より体重のある人間なら、真っ逆さまですよ、と心の中で思いながら、堀田を見つめた。
通報することも、助けることもしなかった。
男は夕暮れのダムに沈んで終わりだった。
あっけなさすぎて、時折、夢だったんじゃないかと思ってしまう。
夢だった……か、と思いながら、日が落ちてきたダムを見つめた。
いい具合にダムがオレンジ色に染まり始めた。
ああ、嫌な時間帯だ。
此処にこの時間に来たのは、あれ以来かも。
背中、ゾクゾクしてきたな、と思わず、腕に手をやると、
「冷えるか?」
と沐生が自分の上着を脱いでかけてくれた。
温かい、沐生の体温が服から伝わる。
振り返り、
「ありがとう」
と言うと、
甘々ですね、と林田が特に面白くもなさそうに言ってきた。
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