あまり立ち寄りたくないダムのほとり I

 


 ダムに続く斜面は木々に覆われて、涼やかな風が吹いている。


 爽やかだ。


 ……死体遺棄現場でなければ、と林田は思った。


「なんで浮いてきちゃったんですかねー。

 沈んでてくれたらよかったのに」

と林田が愚痴ると、横に居た堀田が、深い緑色の水面を見ながら、


「……浮かんでくりゃいいものは浮かんで来ないくせにな」

と呟いていた。


 ん? と振り返った堀田の後ろの道の方、見なくていいものを見てしまった気がする。


 高校の制服を着た男女だ。


 近くの学生たちが野次馬に来た、と信じたかったが、こんな山中に歩いて来られる高校はない。


 最早、嫌な予感しかしないんだが、と思いながら、つい、少し近づき、耳を澄ましてしまう。


「……私が此処でやるわけないじゃないっ」

という少し低めの少女の声がした。


 晶生の声ではない。

 が、意味の通る音声としては耳に届かなかったものの、晶生のものらしき声の振動が風に乗って聞こえてきた気がした。


 幻聴かな?


 思わず、林の中を上の道に近づくと、微かに話の内容が聞こえてきた。


 幻聴かな。


 幻聴だろう。


 幻聴だと思いたい……。


 念じるように林田は思う。





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