かなりめんどくさいダムの殺人 V

 


「なにが大学生のお兄ちゃんだ」

と言った真田に晶生は、


「いや、一個も嘘は言ってないけど」

としれっと返してきた。


 ほんっとうにしたたかな女だ、と真田は思う。


 確かに、どれをとっても嘘ではないが。


 その嘘でない事実のなかに、ひとつ、含まれてないことはないか?


 今朝、なんで、長谷川沐生と一緒だった?


 いや、まあ、兄妹なんだから、一緒に居てもおかしくはないが、普段は違うマンションに居るんじゃなかったのか?


 この不道徳者めっ、と普段、自分が生真面目に生きているわけでもないのに文句を言う。


「……俺だと手を繋いでも嫌がるくせに」

と横を歩きながら、ぼそりと言うと、晶生は他所を向いたまま、


「おにいちゃん以外の人に触られると、穢れる気がするから」

と言う。


 すごく清純な台詞のような。


 そうでもないような。


 ……そうでもないぞっ!?


 一瞬、考えたあとで、そう判断する。


 お前ら兄妹だろうが、一応っ。


「晶生。

 お前ら、さっき、なにか悪巧みしてたな」


 は? という顔で行きかけた晶生が振り向く。


「俺も行く」

「えっ、何処に?」


「長谷川沐生がお前らに付き合うと言うのなら、俺も付き合うっ」


 そう宣言すると、晶生は、ええーっという顔をした。


 だが、自分たちのやり取りを見た凛が笑っているのを見て、

「わかったわよ。

 沐生が乗せてくって言ったらね」

と言ってくる。


 なにがあったかわからないが、晶生にしては珍しく、凛に気を使っているようだったので、自分が来ることで、彼女の気分がほぐれるのなら、と思ったようだった。


 じゃあ、大丈夫か、と思う。

 晶生が自分を連れていくと言えば、沐生が逆らわないだろう。


 所詮、あの男前芸能人様もこの女の言いなりだからな、と思っていた。


 或る意味、魔性の女だな、とさっさと凛と歩いていってしまう晶生の後ろ姿を見送った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!