かなりめんどくさいダムの殺人 III

 


 朝、ちょうど出かけるという沐生に、車で乗せて出てもらうった。


「ああ、極楽極楽」


 助手席に深く腰掛け、快適なエアコンの風を浴びながら、晶生が言うと、沐生は、

「自堕落な学生だな」

と言ったあとで、ん? という顔をする。


「何処かで見たな」

と言う彼は、歩道に視線をちらと向けていた。


 凛が少し先を歩いている。


「車寄せて」

と言った晶生は、窓を開け、凛、と彼女に手を振った。






「芸能人様の車に乗せてもらって学校へとは豪勢ね」

と後部座席で凛が言う。

 特にありがたくもなさそうに。


 晶生もまた、凛の横に座ろうと、後ろの席へと移っていた。


「帰れてよかったわね」

と凛に言ったが、彼女は軽く目を閉じ、


「一時的に帰されただけよ。

 学生だし、特に証拠があるわけでもないし。


 ただ、私が動機の点で最も怪しい、と警察が判断してるだけ」

と言う。


「私、凛の彼氏のこと、よく知らないんだけどね」

と言うと、


「父親の知り合いが紹介してくれた医大生のお坊っちゃまよ。

 情けなくて、頼りない感じの」

と答えてくる。


「あの〜……」

と言いかけると、前を見たまま、凛は言った。


「何処がよかったの、なんて訊かないで。

 私にもわからないんだから」


「ま、確かに、そんなものよね」

と腕を組み、ちらとバックミラー越しに沐生を見ると、彼は言う。


「……何故、俺を見る」


 いや、自分がなんでこの人を好きになったかなんて、明確にわかる人は少ないんじゃないかなと思っていた。


 自分もそうだ。


 もう沐生とは、長い付き合いだ。

 テレビ画面の向こうの彼しか知らないのならともかく、結構、しょうもない人だとわかっているのに。


「女は基本、駄目男が好きなんじゃないかと思うのよ」

ともらすと、


「全員じゃないでしょ。

 貴方と私がよ」

と凛は笑う。


「駄目男って誰だ?

 堺さんのことか?」

と沐生が言う。


 ……おめーのことだよ、と言いそうになった。


「学校のみんな、私が警察連れてかれたこと知ってるかなー?」


 不安を押し隠したいつも通りの顔で凛は言う。


「どうだろ。

 堀田さんたち、一応、配慮して、人目につかないように来てくれたとは思うけど」


 そう答えてみたが、凛は窓の外を見たまま、なにも言わなかった。


「あのさ。

 事件のこと、まだ詳しく報道されてないから、状況はよくわかんないんだけど。

 ……放課後、ちょっと行ってみようか」


 何処に? と凛が振り向く。


「うーん。

 殺害現場とか?」


「殺害現場はまだ特定されてないわ」


「じゃあ……」

と言いながら、晶生は、これ以上ないくらい嫌そうな顔をした。


「……死体遺棄現場」

「無理しなくていいわよ、晶生……」


 私は今、犯人を殴りたい。


 何故、あんなところに捨てやがったか。

 そう言って――。





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