かなりめんどくさいダムの殺人 II



 朝の光に目を覚ました晶生は思った。


 おや?

 すぐ側で人の気配がする。


 横を向くと、沐生の顔がすぐ側にあって、うわっ、と思ってしまった。


 相変わらず、綺麗な顔だなと、つい、眺めてしまう。


 そのうち、沐生が目を覚ました。


「おはよう」

と言う沐生に、


「……お、おはよう」

と答えたあと、晶生は布団にもぐる。


「どうした?」

と沐生の声が布団の向こうからした。


 いや、ふと、これ、夢かな? と思ってしまったので、目を閉じてみたのだ。


 どっちが現実かわかるかと思って。


 なにが現実だといいのだろう、と晶生は思った。


 目を覚ましたら、普通の日常があって、私は誰も殺してなんていなくて。


 いや、そうではないな、と気づいた。

 私が欲しい日常はきっと違う。


 沐生が側に居る日常が一番いい日常だ。

 どんな罪を背負っても。


 そうっと布団から目だけを出すと、沐生は横向きに寝て、こちらを見ていた。


「ひょいひょい堺さんに会いに行くなよ」

と言ってくるので、


「堺さんに会いに行ったわけじゃないってば」

と言ったのだが、


「遠藤にも会いに行くな」

と更にうるさいことを言ってくる。


「うーん。

 そっちは、行かないとは言えないな」

と言うと、なにっ? という顔をされた。


 その直後に、あの音がした。

 朝恒例のおかーさまが雨戸を開ける音だ。


「沐生っ、戻って戻って」

と小声で叫んだが、沐生は横になったまま動かない。


「おかーさんが起こしに来たらどうするのっ」

と叫ぶと、


「お嬢さんをくださいって言う」

 あっさりと沐生はそう言った。


「そうか。

 それで丸く……」


 おさまるかーっ、と沐生をベッドから叩き落とした。


「おはよう、おにいちゃん。

 ありがとう。

 起こしに来てくれたの?」

と聞いているかどうかわからない母に向かい、聞こえるように言ってみる。


 顔を近づけた沐生が抑えた声で言ってきた。


「……晶生。

 今の今まで、お前は俺より芝居は上手いと思ってたんだが、ど下手くそだな」


 ははは。

 ……おにーさまの立場が悪くなると思ったからですよ。


 いや、本当に。


 出て行こうとする沐生の背に向かい言う。


「私がお兄ちゃんより芝居が上手いわけないじゃない」


 足を止め、振り返った沐生は言った。


「でも、俺の目には、あのときのお前の芝居が焼きついている。

 ……すごいと思った。


 だから、自分もやってみたいと思ったんだ。

 本気で芝居を」


「私のあれは芝居じゃないもの。

 ただの真実よ。


 それに、一番芝居が上手いのは……堺さんかも」


 堺の告白を思い起こしながら、そう言ったとき、母親の声がした。


「二人とも、早く起きなさいよーっ。

 ご飯、冷めるじゃないのよー」


 はーい、と晶生はそちらを振り返り、返事をした。





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