過去 II


 

 夜七時半、晶生は父親の車をコンビニ前で降りた。

 そこで、汀と待ち合わせているからだ。


 食事に行く予定の創作料理の店が、少し場所がわかりにくいからだと汀は言っていた。


 入り口がわかりづらく、隠れ家的なお店らしい。


 コンビニに入った晶生は、雑誌のコーナーに行く。

 時間が潰せるし、外からよく見えるので、汀が来たとき、わかりやすいだろうと思ったのだ。


 また沐生の記事が出ていたらムカつくので、週刊誌の見出しは出来るだけ視界に入らないようにして、横にあったパン屋の特集の雑誌を手に取る。


 時折、雑誌から目を上げ、夜の街を見る。

 夜なお明るい通りを、生者も死者も同じように闊歩していて、興味深い。


 お、学校近くの店が出てる、と記事を見ながら思ったとき、目の前で誰かが手を振っている感じを受けた。


 気配とでも言うか。


 ガラスの前に、モデルはやめても、モデルにしか見えない男が居た。


 服飾メーカーのグループの役員だから当たり前といえば、当たり前だが、一分の隙もない着こなしだった。


 本を置いて出て行くと、汀は上から下まで晶生を見、

「よし、ぼちぼち大人に見える格好だな」

と言った。


 今日は、白いパールの付け襟に紺色のワンピース。

 それに、少しヒールの高い靴を履いていた。


 汀が仕事の後か途中で来るのなら、スーツだろうから、その姿の彼と居ておかしくない格好にしたまでだ。


 だが、汀は、よしよし、と頷き、

「子供をかどわかしてるみたいに見られたらまずいからな」

と言う。


「かどわかされる予定はありませんが、まだ子供です。

 ところで、なんのご用ですか?」

と言うと、汀は、


「まあ、とりあえず、歩こう。

 此処は人目に着く」

と自分が此処を指定したくせに言い、先に立って歩き出す。


 やれやれ、相変わらずマイペースなお兄さんだ、と思いながら、晶生は付いていった。



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