居るよ…… V
そのとき、ガターンッと音がした。
「すみませーんっ」
と中から声が聞こえてくる。
照明が突然倒れたようだった。
スタッフが慌てて駆け回っているのが見えた。
「……もういいですかね」
と中の気配を窺っていた笹井が呟く。
誰かがこちらを振り向き、窓を叩いて、笹井に合図をしてくる。
出てきてください、と言っているようだ。
だから、もういいですかね、という確認は、スタッフに向かって呟いたのかと思っていた。
だが、笹井は晶生に向かって言った。
「あれで、なにか此処に居る風な演出は充分だと思います。
晶生さん、私に中の霊を抑えられるかどうか、わからないですが。
とりあえず、やってみてもいいですかね?」
さっきの確認は、晶生への除霊の確認をだったようだ。
「えっ。
じゃあ、今、照明倒れたの、やらせなの?」
と真田か言う。
「違うと思うわ」
と中を見ていた堺が言った。
沐生と一緒に出演している女性タレントのマネージャーが猛抗議している。
タレントの立ち位置すれすれに照明が倒れてきたからのようだった。
スタッフが慌てて頭を下げていた。
「あんな危ない真似しないわよ。
せいぜい、離れた場所で、そっと倒すか、音を立てるくらいのものよ」
そりゃそうだろう。
タレントに怪我をさせたら、問題になる。
それを聞いた真田が寂しく呟く。
「……やっぱ、普段はやらせなんだ」
「そうでもないですよ」
と笹井が優しく真田に言った。
「予定と違うことなんて、幾らでも起こりますから。
でも、意外と本物の霊は映ってくれないし、人が多いといつも通りの動きをしてくれなかったりするんですよ」
と。
晶生、と堺がこちらを見る。
今のが本当に霊の仕業だったのか、確認するように。
「確かに、今、照明のスタンドの側に、動かない人影が見えましたね。
あれだけみんなが駆け回ってたのに、動かないのは変です。
こちらに背を向けてたし、いつの間にか消えてたんで、霊かも。
この位置からでは、生きた人間だか、死んだ人間だか、わかりづらかったですが。
他の人たちが見てなかったのなら、霊かもしれないですね。
ちなみに男です」
そんなアバウトなもんなのか? という顔を真田はしたが、いやいやいや、そんなものだ。
「あれも堺さんには見えませんでしたか?」
と問うたが、堺は、
「そっち見てなかったから」
と言ったあとで、
「いやいや、私、見えないから」
と言い直す。
今更ですよ、と思いながら考えた。
中に居るなにかを抑えた方がいいのは確かかも。
霊が祟って殺す、まで行くことはあまりないが、そのイタズラにより、怪我をすることはある。
今、あのタレントが怪我しかけたように。
だが、中の霊を抑えたら、今、外を徘徊しているあの女の霊が中に入ってしまうだろう。
それでなにが起こるのか確認するべきか。
だが、あの女の霊、どうも沐生に対して、なんらかの感情を持っている気がする。
まあ、どのみち、笹井はもう呼ばれてしまってるいので、中で除霊まがいのことをしなければならないだろうが。
要は、それを本気でやるかどうかだ。
「……笹井さん、すみません。
除霊、ちょっと本気でやってみてくださいませんか?」
と言うと、笹井は、
「了解です」
と言って白い杖をつくでもなく、ひょいと手に持って玄関に行った。
ガラガラと戸を開ける。
いやあの……気を抜きすぎですが、大丈夫ですか。
今のを誰かに見られてるんじゃないかとこっちが不安になる。
晶生は振り返り、通りを確認したが、幸い、行き交う車しか見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます