居るよ…… III


 あーあ、沐生、家に引っ張り込まれちゃったか、と晶生が他人事のように眺めていると、横に居た汀が、

「行かなくていいのか」

と言ってくる。


「行っていいんですか?」

と言うと、

「カメラに映らないようにしろよ」

と言う。


 迷っていると、それは出てきた。

 あの女の霊だ。

 さっきと同じように這い出てくる。


 そして、辺りを窺うようにして、また、戻っていった。


 なにしてるんだろ。

 沐生の他にも誰か引っ張り込もうとしてるのかな。


 そう思いながら、晶生は道路を渡って、そちらに近づいてみた。


 すると、一度中に入った霊がまた出てくる。

 だが、その霊は晶生の足許を這い、また戻っていく。


 おかしいな。

 足を掴んだりしないぞ。


 時計を確認する。

 この霊が出ると噂の午後二時はもう随分過ぎていた。


 晶生はそこにしゃがみ、霊が再び出てくるのを待ち構えていた。


 やがて、這い出てきた霊は、しゃがんでいた晶生と目が合ってしまい、わっ、という顔をする。


「……あの、なにしてるんですか?」

と晶生は訊いてみた。


『中に入りたい……』

と女の霊は言ってくる。


「なんで入れないんですか?」


『だって、悪霊が居るから』

と女は答えた。


 いや、貴女が悪霊ですよ、と思ったのだが、言っては悪い気がして黙る。


 それに、この霊、よく見れば、かなりの美女だ。

 悪霊などと言っては、悪い気がしたからだ。


 きっと生前は感じの良い美しい人だったのだろう。


 でも、なんだか……とその顔を眺める。


 この顔、何処かで見たことがある気がするんだよな。

 こんな顔で、もうちょっと邪悪な感じの顔を――。





 まだ道路の向こう側、離れた位置に居た堺は、晶生がしゃがんだり、立ったりするのを見ていた。


 なにしてんのかしら、あの子は、と思っていると、

「行かなくていいのか」

と横から声がする。


 汀だった。


「いやあ、大丈夫じゃない?

 ……大丈夫じゃないですか?」

 つい、気安い口をきいてしまい、訂正する。


 大学で同じサークルに居たことがあるので、気を抜くと、つい、昔の口調になってしまうのだ。


「お前、昔、霊が見えてたろう」

「今は見えませんよ」


 いや、今回は……本当に見えない、と思いながら、晶生の視線の先を追ってみたが、なにも見えては来なかった。


 離れてはいるが、距離は関係ない。

 生きた人間は遠いと見えづらいが、霊だと見えるときは、そんなことお構いなしにハッキリ見えるからだ。


「……晶生、入ってってますね」

「行けよ。

 お前、沐生のって言うより、晶生のマネージャーだからな」


 誰がですか、と言いながらも、やはり、心配になり、道路を渡ろうとする。


 すると、

「俺も行っていいですか?」

と真田が訊いてきた。


「いいけど。

 撮影中は静かにしててね」

と言うと、はいっ、と返事をしてくる。


 ちょっと生意気そうだが、いい子だな、と思う。


 晶生のことが好きなようだが。


 あんな女を好きになって、道を踏み外さないといいけどな、と余計な心配をしてしまう。


 そして、そんな余裕があるのは、晶生にとって、彼が恋愛対象外だと気づいているからだろうかな、とちょっと思った。




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