テレビ局  I




 踏んでる踏んでる踏んでるよ





 数日後、晶生は堺とともに、テレビ局のエレベーターに乗っていた。

 樹里に来るように言われたからだ。


「なんで、家の電話でかけてくんのよ」

と横でエレベーターの壁にすがっている堺が言う。


「いけませんか?」


「あんた、私に携帯の番号、教えまいとしてるでしょ」


「いけませんか?」

と晶生は繰り返す。


 堺がいつもより幼く見える顔でふてくれさたので笑ってしまった。


「沐生に訊けばいいじゃないですか。

 沐生は知ってますよ」


「あの男が、あんたの携帯の番号なんて教えてくれるわけないじゃないのよっ」


 自分も堺も、一応、小声のつもりだったのだが、聞こえているようで、隅に乗っていた白い杖の男が笑う。


「あ、すみません、笹井さん。

 騒がしくて。」

と堺が彼に向かい、謝る。


 いえいえ、と男は笑って手を振ってくれた。


 テレビで何度か見たことがある。

 霊能者の笹井光一だ。


「笹井さんの番組、うちの親が熱心に見てますよ」

と晶生が言うと、


「ありがとうございます」

と『盲目の霊能者』として有名な笹井は丁寧に頭を下げてきた。

 随分と腰の低い男のようだった。


 堺がこの間放送された心霊番組の話題を出し、笹井がそれを笑いで返した頃に、チン、と可愛らしい音を立て、エレベーターは目的の階に着いた。


 同じ階で降りるようだったので、笹井を先に降ろし、堺と晶生も降りる。


「晶生、心霊番組とか見るの?」

 そんなの見なくても、いつも見えてるだろうに、と言う。


「親が見てるんです。

 だから、なんとなく、私も沐生も。


 時代考証とか無茶苦茶言う霊能者の人も居たりして、面白いですけどね」

と言うと、面白がるところが違わない? と苦笑いする。


「最近の番組の中では、笹井さんのが一番、まともかも。

 変に視聴者を怖がらせるようなことも言わないし。

 私も見てて怖くないです」


「それっていいことなの?

 っていうか、あんた見えるのに、ご両親は見えないの?」


「隔世遺伝ですかね?

 お爺ちゃんは見えるので」


 そう小首を傾げながら、晶生は思う。


 そう。

 だから、祖父には、なにもかも見えているはずなのだが。


 私に憑いているものも。

 沐生に憑いているものも――。





 踏んでる 踏んでる


 踏んでるよ




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