神社 IV

 


 午後二時五十分。

 そろそろ行ってもいいだろうか、と真田はひょっと鳥居の陰から境内を覗く。


 今、なんの行事の時期でもないせいか。

 境内には散歩ついでに参拝に来た、という感じの夫婦しか居なかった。


 晶生は……?

と見回したが、見えない。


 やっぱり、三時までもうちょっと待ってから、と振り返った瞬間、和やかな散歩のご夫婦もぎょっとするような悲鳴を上げてしまった。


 真後ろに長谷川沐生が立っていたからだ。


 いきなり、テレビでしか見ない顔が居たら驚く。


 しかも、サングラスもなにもかけずにびっくりするような整った顔を晒して立っているのだから。


 長谷川沐生は長い悲鳴を上げ続ける自分を無表情に見ていた。


「あら、沐生ちゃん、こんにちはー」


 さっきのご夫婦がこっちを見て笑いながら、沐生に頭を下げていった。


 沐生とは知り合いなのか、普通に挨拶し、下りていく。


 沐生は、ぺこりと頭を下げていた。


 去りゆくご夫婦の後頭部を見ながら、

「……あれはわかる。

 知り合いだから」

と呟いていた。


 そういえば、生きてる人間と死んでる人間の区別がつかないんだったな、と晶生に聞いた話を思い出す。


「俺は生きてますよ」

 一応、確認のために言ってみたが、


「知ってる」

という味も素っ気もない返事があっただけだった。


 うーむ。

 こっちは晶生の側をウロウロする彼に、ちょっとした敵意を抱いているのだが、向こうは、俺を虫ケラぐらいにしか思っていないようだな、と思う。


 いや……恐らく、被害妄想だが。


 沐生は進まない自分を追い越し、境内に入っていってしまう。

 慌てて後を追った。




「あら、どうしたの? 二人で一緒に来たの?」

 社務所の中に居た晶生がこちらに気づいて言った。


 晶生の巫女姿は予想以上に似合っていた。

 白と赤の衣が晶生の清廉な雰囲気をより引き立てている。


 その晶生の視線が、自分の胸許に下がっているものを見た。


「真田くん、それ、なに撮るの?」


 立派な一眼レフカメラが弓道の練習に不似合いだったからだろう。


「いや……その、神社とか。

 散歩中の道とか?


 ……晶生のお爺さんとか?」


 何故、お爺ちゃん?

 そして、何故、疑問系? という顔を晶生はしていた。


「せっかくなんだから、沐生を撮りなさいよ。

 お母さんたちへのお土産に。


 お母さん、沐生、好きじゃないかしら?」

と軽く言って、沐生に、おい、と言われていた。


「なにか写っても知らないぞ」


「いつも大丈夫じゃない。

 大丈夫よ」

となにやら物騒な会話が目の前でなされている。

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