懐古ホテル III

「しかし、あの女はなんで、そんな気持ちの悪いような男を好きだったんだ?

 刺されたのはなんでだ?

 かばったのはなんでなんだ?」


「……ねえ、遠藤。

 ちょっとは自分で考えてみない?」


 撮影が終わったらしい沐生が、なにやってんだ、という顔で少し離れた場所からこちらを見上げていた。


「いいじゃないか、教えろ」

 晶生は溜息をついて言う。


「謎は解くまでが楽しいのに。

 解いてしまったら、ロクでもない現実が待ち構えてるだけよ」


「もう死んだ人間に忠告してどうする気だ、お前は」

と言われ、そういえば、貴方死んでたわね、と晶生は肩をすくめて見せた。


 あまりにペラペラと生きている人間のように喋るから、つい、忘れそうになる。


「まあ、気持ち悪いかどうかは受け取る人次第というか。

 でも……正直なところ、私にもそこのところはよくわからないわ」

と言うと、訊いてこい、あの女に、と言われる。


「暇ね、遠藤。

 抜いてあげましょうか、そのナイフ。


 すっきり成仏できるかもよ」

と言ってみたが、別に成仏したくない、と言う。


「そういえば、あのとき。

 貴方、本当は樹里を助けようと思って、私たちに言ったんでしょう?


 上でこれから誰かが死ぬって」


 あのときのあの女は美しかった、と遠藤は言っていた。


 いつもと違う樹里の姿にさすがの遠藤も胸打たれたのではないかと思ったのだが。


「甘いな、晶生」

と遠藤は言ってくる。


「私はいつも、ただ面白がってるだけだよ。

 まあ、その女の心の謎が解けたら、いつか教えてくれ。


 さあ、テストの解答を見せてくれた礼をしようか」

と遠藤は被っているクリーム色の帽子のひさしを掴む。


 お礼に、私の謎の解答をひとつ進呈しよう、と遠藤は言った。


「晶生、お前に見せてやろう。

 この美しい幻を――」


 遠藤は帽子を脱ぎ、階段に手をつくと、身を乗り出し、晶生の額に己の額を当てた。


 晶生は目を閉じる。

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