Episode16 カードゲーム:ウォーリアⅡ


 アルフレッドが悪党二人組とカードゲーム、ウォーリア対戦で戦うこととなった。こいつらはイカサマかインチキを使った必勝の策があるに違いない。


 ―――――詐欺には詐欺を、だぜ。

 そんな事言っていた。

 こいつらを出し抜く術がフレッドにはあるとでも言うのだろうか。


「まずルールの確認だが三回勝負のうち二回先取でいいんだよな?」


 スキンヘッドの悪党がフレッドに問う。


「あぁ、お前らがやってたウォーリアとやり方は全部一緒でいい」

「分かったぜ。へっ………」


 スキンヘッドは下卑た笑みを浮かべていた。

 外からはテント内の不穏な空気に相反して、浮かれた雑踏、陽気な光が入り口から漏れてきて多少は明るかった。それのせいで、フレッドの姿はよく光に照らされていたが、悪党ども二人はフレッドからは逆光だ。

 この位置だけでも不利な気がする。


「勝負を始める前にいくつか条件を加えさせてもらってもいいか?」


 出っ歯の方の悪党が付け足した。


「なんだよ。こっちが不利になるような奴は無しだぜ」

「まずインクライズカードをチェックさせろ。細工されてないか入念に見てやるぜ」

「なんだそんなことか。お前らこそ折り目つけるんじゃねえぞ」


 そうしてインクライズカードは入念にチェックされた。一枚一枚入念に行われて、特に細工がないことが確認された。こっちも確認したが、今のチェックでこの二人に何か細工されたということはないようだ。


「あとそこのガキだ」

「え?! 俺?」

「お互い二人いる。とりあえずゲーム中の仲間のお喋りは無しだ。そこのガキもお喋りNGだぜ」

「もちろんだ。お前らはどうするんだ? どっちがやるんだ?」

「今回も俺が相手だ」


 名乗りをあげたのはスキンの方だった。出っ歯の方は見物に回るようである。


「いいぜ? リベンジだ。んじゃあ話がまとまったとこでさっさと始めようぜ」

「―――待て」

「なんだよ、まだあんのかよ」


 待てと制したのはスキンヘッドだった。


「お互い、服脱いでやろうや」

「気色悪いな。そっちの趣味でもあんのか?」

「バカかテメェは! 袖に何か隠してもらってちゃ困るからな」

「………んなわけあるかよ。それは拒否する」


 今までいろんな条件を呑んでいたアルフレッドが初めて拒否した。

 それに、図星かと目をつけたのは出っ歯の方だった。


「おい、袖に何か仕組んでんじゃねぇだろうな? 何か不都合なことでもあんのか?」

「………ちっ。仕方ねぇな」


 そうしてスキンとフレッドは上裸姿になった。

 フレッドの肉体は上腕から背筋、腹筋に至るまで、隆々と鍛え上げられていた。腹はシックスパックに綺麗に分かれ、これを見せつけられただけでも女性だったら恋に落ちそうなほど見事な肉体美だった。

 対するスキンも筋肉質ではあるが、脂肪も適度についており、かなりムチムチしていた。

 バキバキのフレッドに対してムチムチのスキン。

 屋台テントのむさ苦しさが増す!


「っしゃあ、じゃあやろうか」

「けっ、気色悪い体だぜ、ムチムチ野郎」


 服を脱がされたことはフレッドにとって不本意なことだったのだろうか。非常に不満そうだった。それを汲み取ったのか、二人組はニヤニヤしていた。もしかしたら本当に袖に何か隠していて、それを封じられたのかもしれない。こんな恰好ではカードをすり替えるといった事もできないだろう。

 フレッドとスキンが交互にカードを切り合って、子どもの俺が五枚ずつ二人に配った。

 俺はフレッドの後ろから対戦を見守った。

 相手にフレッドの手札が伝わらないよう、ポーカーフェイスを努めよう。



 ――――第一戦――――――――――――


 アルフレッドの手札

 剣S 弓S 剣B 剣C 弓G


 フレッドの手札には光Sも闇Sもなかった。

 しかし逆に言えば、相手には剣と弓のSは無いということだ。


「へへっ、俺は三枚変えさせてもらうぜ?」


 声を上げたのはスキンヘッド。交換が認められる最大の三枚を変えたということは、雑魚しか引かなかったのか?

 でもそう思わせる罠かもしれないし、何とも言えなかった。

 下卑た笑みを浮かべ続け、何を考えているのか分からない。


「俺も三枚だ」


 対するフレッドの目つきは真剣そのもの。相手を真っ直ぐ睨み付け、表情はまったく変えなかった。


 三枚交換したことによるフレッドの手札

 剣S 弓S 弓C 弓D 剣F


 特に状況は変わっていない。


「それじゃあいくかい?」

「あぁ」

「せーのっ」


 フレッド 剣F vs スキン 闇S


 引き分けだ。スキンは初手で勝負をかけてきたが、闇カードを捨ててしまったようだ。


「おっと。こりゃあやられちまったぜぇ」


 それでもスキンは表情を変えなかった。

 余裕そうに笑いを浮かべている。

 ということは、やはり光Sカードを持っている?

 しかしもし光Sを持っていたら、フレッドは剣弓Sのどちらかを出したら負ける……。

 まだわからない。


「茶番はいらねえ。どんどんやろうぜ」

「へへっ、もちろんだ。せーのっ」


 フレッド 剣S vs スキン 剣A


 よし、一回戦目はフレッドの勝ちだ!

 光Sカードが出てくる恐怖心を払拭したんだ。


「いい度胸じゃねえか」

「ふん」


 そういってスキンは残りの三枚の手札を見せつけた。その中には光Sカードが含まれていた。

 一戦目を取られたのに、スキンヘッドも出っ歯も余裕そうだった。



 ――――第二戦――――――――――――


 フレッドの手札

 闇S 剣A 弓B 弓C 弓G


 今度はSカードが一枚しかない。しかも闇Sの一枚のみ。

 闇Sは光Sに負ける上に、雑魚カードに対してはあいこになってしまう微妙なカードだ。


「おい、カードは変えねえのか?」

「いや、俺はこのままでいく」


 フレッドはしかし手札を交換しなかった。


「一戦取ったからって余裕こいてんじゃねぇよバカ野郎が。俺もこのままでやってやるぜ」


 そうか。

 カードを交換しないということは、山札の枚数をある程度残すことができるんだ。その分、相手の持っているカードを予測しにくくさせる事が出来る。

 フレッドが今、闇Sを持っているのか持っていないのか、相手には知る由がない。

 ましてや相手もカードを交換しなかった。

 山札にはまだ八枚カードがあり、闇Sが含まれている可能性はある。

 そうなると相手は光Sを出すべきか、剣・弓のSカードを出すべきか迷うはめになる。光Sを出してフレッドが雑魚を出したら負けてしまうし、剣・弓Sを出しても、闇Sを出してくる可能性だってある。


「決まったか? 行くぞ」


 フレッドが相手を急かす。しかしなお、悪党どもは余裕そうだった。


「いいぜ。せーのっ!」


 フレッド 剣A vs スキン 弓S

 負けた。しかも一手で。


「へっへっへ、俺らを惑わそうとしても無駄だぜ?」

「くそっ!」


 フレッドは初めて勝負中に悪態をついた。ポーカーフェイスも崩れて、ちょっと追い詰められたような顔をしている。

 なぜ?

 アルフレッド流の演技か?

 あるいは俺の窺い知れないところで、イカサマの攻防戦が続いているのか?

 なんだかさっぱりわからないが、信じて見守るしかなかった。



     □



 この赤毛はもう終わったぜぇ。もう勝負が始まったときから俺の勝ちは確定。

 前と同じ条件で、とかバカじゃねぇのか?

 リベルタにいるっていう美女二人をどう遊んでやるかばかり考えちまう。思わず涎が出るぜ。 


 こいつは前回の勝負でカードのすり替えを疑ったりしてたがそんなんよりもっと単純な仕掛けがあるんだっつーの。赤毛は今回もその正体に気付けなかったみてーだな。

 へへっ、リベルタだかイベリコだか知らねえが、リーダーだなんだって威張ってても大したことねえ。


「そんじゃあ、まぁ、ラスト勝負と行こうかい?」

「あぁ……」


 しかも見ろよ、この余裕の無さそうな顔。

 もう負けますって顔してやがるぜ?

 俺は隣の相棒に目で合図を送った。

 お喋りNGってことは相手のガキも何もできやしねえ。

 だが合図が無くても、相棒に協力してもらうことはできるんだぜ?

 そうして最後のカードの山札が切られた。

 ガキの配り方も動揺が隠せてねえ。



 ――――第三戦――――――――――――


 俺の手札

 光S 弓S 弓C 剣D 弓G


 きたぜ! 光S!

 じわじわ攻め込んで追い詰めたところでSカードでぶっ叩いてやる。

 そんで、赤毛のカードは、と……。


 赤毛の手札

 闇S 剣S 剣A 剣B 弓E


 おっしゃあ!! へっへっ、丸見え!

 勝ちも決まったな。もうこの時点でSカードは場に出てる。ここから予想できる戦略は限られるぜ。



 俺の隣にいる相棒は魔法操作の達人だ。

 敵プレイヤー背後で作り出す水魔法"水鏡"は、相手の手札を漏れなく映し出している。

 水の魔法を平たく展開させて、その水面に波一つ立てさせない。そんな器用なマネをするやつは相棒ぐらいしかいねえ。そもそも、鏡をわざわざ水魔法で作る物好きはいねえからな。ばれそうになったらすぐに蒸発させれば証拠も残らねえ。

 完璧な盗み見。

 だから誰も気づかねえ。


 この水鏡の発動には条件がある。水鏡の背後が暗くなきゃ光が反射しねえし、正面からの光もある程度必要だ。

 だがこの赤毛が作り出した屋台テント……良い条件つくっちまってるじゃねぇか、おい。

 俺らの背後の入り口から少しだけ光が差し込んで、赤毛の背後はちょうど暗い。俺らを誘い出したつもりなんだろうが、はめられてんのはテメェの方だぜ。


「ジャック、後ろから見るんじゃねえ。気が散るぜ! お前の表情でカードも相手にばれちまってんじゃねぇのか?!」


 赤毛は相当追い詰められてんのか、後ろのガキに怒鳴りつけて、後ろからじゃなくて横に付けと合図した。


「おい、仲間とのおしゃべりは――――」

「それくらいいいじゃねぇか。相談じゃねぇ。命令したんだ」


 ま、それくらいは許してやるか。ガキの表情なんか見なくてもお前のカードは見え見えなんだけどな。

 むしろガキが退いてくれるおかげで、余計に見やすいぜ!

 そうしてガキは心配そうな顔を赤毛に向けたまま、黙って脇へ退いた。しかしその心配そうな顔も、赤毛の後ろの水面に気付いたのか、驚愕の表情に変わった。


「あ、あ……ふ、フレッド………!」

「いいからお前は俺を信じて黙っていろ!!」

「でも」

「黙ってろ!」


 ガキは押し黙った。おっと危ねえ……。

 赤毛は相当運が悪いみてぇだな。自ら救いの一声を断ち切りやがったぜ。


 ―――バンッ!

 ついに赤毛は片手で地面を叩きつけた。

 自棄になったのか?

 へっへっへ。もう勝負は決まってんだよ。


「おいどうした。まだ一勝一敗じゃねえか。最後まで正々堂々やろうや」

「あぁ、いいぜ」


 赤毛が急にニヤリと笑った瞬間、突如として風が吹き込み始めた。


「なんだ? やたら風が強いな。おい、赤毛野郎。お前なんかしたのか?」

「何もしてねえよ。そいつに外の様子でも見させたらどうだよ」

「……行け」


 相棒は外の様子を確認してきたが、街中が強風で晒されているようだ。

 特に不自然に風が起こった様子じゃない。


「どうも潮風のようだな」

「なに?」

「この街は潮風が強いんだ。たまに強風が吹きつける。うざってえから入口を閉めてこい、ジャック」

「え? おい、なんでだよ」


 赤毛が俺の目を睨んできた。


「風でカードが舞いあがったら大変だろ。それとも――何か不都合なことでもあんのか?」


 赤毛は相棒が勝負前に言った言葉をそのままオウム返ししてきやがった。

 口元は釣り上がって笑っていやがる!

 こいつ、水鏡に気づいてやがる………?


「い、いや……ねぇよ」


 ガキがテントの入り口の垂れ幕を下げて、一気に屋台テント内は薄暗くなった。そこに周囲一帯に無数の火が浮かび上がった。


「暗いようじゃ勝負にならねえからな――――お前らには"光"が必要だろ?」


 赤毛がどうも火魔法で周囲に明かりをつけたようだった。これで相棒の作り出す水鏡は反射の条件が揃わなくなった。

 これじゃあ相手の出すカードが分からねえ!


 しかもその"光"という言葉。

 こいつも俺の手札が見えてやがんのか?

 いや、平常心を保て。どっちにしろ最初の手札は見えてんだ。

 場には全部Sカードが出てる。相棒にもちゃんとインチキがねえか全方位チェックしてもらってる。向こうは俺の手札は分からねえだろうし、後はカード勝負で叩き崩してやるぜ。


「カード三枚変えるぜ!」


 あほんだらが。カード三枚引き直したって状況は変わんねえんだよ。俺の手元に残りのSカード出てんだからな。


 まず何がくる?

 闇Sと剣Sと雑魚三枚。これに打ち勝つ方法があるとしたら、闇Sと剣Sに対して光Sを出すか、雑魚に対して弓Sで叩くかだ。

 まず第一手で雑魚がくるか?

 だったら弓Sだが、警戒すべきは闇Sカード。


「おいどうした? さっきよりかなり悩んでるようじゃねえか?」

「はっ、だから何だってんだよっ」


 くそ、煽ってきやがるぜぇ!

 Sカードでも誘ってんのか?

 だが雑魚が来ようが、闇Sが来ようが、俺の雑魚で相殺すりゃあ、相手の選択肢は狭まっていくんだ!

 じわりじわりと追い詰めてやる。

 こいつだってさっきの動揺ぶり、怖いに違ぇねえ。

 なんたって仲間も賭かってんだからな。


「おい、そろそろいいか? いくぜ?」

「おぉ。せーのっ」



 俺 剣G vs 赤毛 剣F



 へっへっへ。だろうよ。Sは出せねえよな。

 封殺されたらそれだけ追い込まれるもんな。


「おい、ミスター・スキンヘッド」

「なんだ! ぐちゃぐちゃうるせえ野郎だな! 降参でもするのか? あぁ?!」

「お前は負ける」

「………なんだと?」


 バカな。何を根拠に?

 俺はまだまだ手があるぜ。こいつの剣Sも闇Sも、光Sで叩ける。相手を追い込めば確実に勝てるんだ。

 だから雑魚を出し続ければ………。

 まさか次の一手で剣Sを?

 いや、さっきの煽りは光Sを誘って雑魚を出すための挑発か?

 ちくしょう!

 相手の出す札が見えねえから、頭が回らねえ!


「さっきみてえにヘラヘラ笑わねえんだな」

「うるせえよ! ほらいくぜ!」

「ああ。せーの!」



 俺 剣C vs 赤毛 弓F



 っふー………。危ねえ。

 一瞬、剣Sくるかってびびっちまったじゃねぇか。でも次の三手目で最後だぜ。次に雑魚を出し合えば、こいつはもう剣S闇Sだけ。

 どっちも光Sが勝てるカードじゃねえか。

 四手目にはもう勝敗は決まってる。

 この一手が大事だ。もう一度、場の札を整理しよう。


 俺は光S、弓S、弓Bの三枚。

 赤毛は闇S、剣S、雑魚の三枚だ。

 赤毛が勝つための選択肢はこの一手で三つから選ばなければならねえ。

 ・闇S vs 俺の弓S

 ・剣S vs 俺の弓B

 ・雑魚 vs 俺の光S


 対する俺は光Sを出すか、弓Bを出すかの二択だけだ。弓Sを出す価値はねえ。赤毛が剣S、闇Sを選ぼうが光Sで叩けるし、雑魚を選んだ場合は弓Bで相殺して四手目の光Sで勝利確定。

 確率で言えば、俺は勝率1/2だが、赤毛は勝率1/3。


 へっへっへ……。赤毛は怖いはずだ。この勝負がな。

 そこのガキも、女も、有り金も掛かってんだ。

 三つも選択肢があるっていう状況が自分を追い詰めるに違いねえ。


「もう一度、言うぜ―――お前は負ける」


 赤毛は相変わらず俺に対して挑発をかけてきやがる。だかこれは苦しい戦いの中で、少しでも俺の動揺を誘おうっていう罠だ。

 でもその目には苦し紛れな感じが一切ない。

 ……もし、こいつに何か必勝の手があるとしたら。


 その可能性が拭いきれない。

 だがガキは相変わらず不安そうに盤上を見てやがる。何か怪しい魔術を使ってるようには見えねえ。お互いにイカサマできるような状況じゃねえ。何一つ騙される心配はねえんだ!

 こいつの真っ直ぐな目は俺をはめようとしてるからに違いねえ!

 俺を煽る発現。急かす発言。すべては3手目で俺の光Sを誘って、そんで雑魚を出して勝ち誇るつもりだ。

 ――――お前らには"光"が必要だろ?


 調子に乗りやがってっ!

 バカにすんじゃねえよ!

 さっきの言葉は俺に大事なとき光Sを出させるブラフ!

 光なんか必要ねえよ!


「お、決まったようじゃねえか。そろそろいいか?」

「余裕そうにしてるが、テメェが一番追い詰められてるってことを思い知らせてやるぜ」

「ふん……ここが大事な場面だって、ゴリラのお前でも分かってるみてえじゃねえか」

「うるせぇ。出し終わった後に泣き面かくのはテメェだぜ」


「いくぜー?! せーのっ」


 剣Sも闇Sも怖くねえぜ!

 ガキも女も頂きだぜ! くらえや!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る