Episode12 ガラ遺跡Ⅱ
◆
"――――応えて――――"
何やら丘を望む大地に立っていた。遠くから声も聞こえる。
"――――私の声に、応えて――――"
周囲は見果てぬ限りの荒野だった。植生もなく、大地が広がっていた。
延々とこだまする男性だか女性だか分からない声が俺の耳元に届いていた。
"――――戦士たちは私を求め――――"
次第に声がはっきりと聞こえ始めた。
丘の上から白い石ころがごろごろと転がり始め、俺の足元へと転がってくる。
空は黄色く光りだして、夜明けなのか日暮れなのか分からなかった。
"――――そして、私を犯すのです――――"
転がってきた石ころに触れると、石にしてはやけに軽かった。
石は虹色に点滅し始めたかと思ったら、少ししてその光を失った。
"――――私を助けてください。戦場があなたを――――"
気づくと石ころは、人の頭蓋骨だった。
生々しいフォルムが目の前に飛び込んでくる。
驚きのあまりに投げ捨てた。頭蓋骨は転がって、その動きを止めると、首だけの少女の頭部に代わっていた。
そして首だけの少女は口を開いて喋りだした。
「……待っています」
◆
「うわっ!」
飛び起きると、設営されたテントの中だった。
体中、寝汗でべったりだ。
「はぁ……はぁ……」
気色悪い夢を見てしまった。よく悪夢には悩まされたことは何度もあったが、今のはかなり強烈だった。
しかも情景も鮮明。
「……う……ん? ジャック? どうかしたの」
眠そうな目をこすってリンジーも目を覚ました。
「い、いや、なんでもない」
「寝ぼけちゃって……」
そうしてまた横になった。ダンジョンで寝泊りするという緊張感が俺に変な悪夢を見せたのかもしれない。
気にしないようにしよう。
…
目を覚まして各自装備を整えると、すぐにも活動を開始した。
俺が穴掘りの場所を決めることになっているため、俺が前線を歩いた。
隣にはトリスタンがついて歩き、魔力を探知してくれてる。
「ジャック、どうだ?」
「うーん……」
どうだ、と言われてもさっぱり分からない。
昨日五人にくっついて歩いていたとき、ダンジョン内を眺めまわしていたけど、それっぽい場所も検討がつかなかった。
「危険な魔力源はいろんな方向から来ている。もしかしたら先に進むこと自体が危険行為なのかもしれん」
トリスタンは冷静に助言を入れ始めた。そして後ろを振り返ってリーダーに言った。
「フレッド、ここはひとつ戻る、というのも手ではないか?」
「……トリスタン、確かにダンジョン探索では無理するのは禁物だ。だが地下にはお宝が眠っている。俺たちは別に消耗もしていなければ仲間のピンチでもない。ここは一攫千金を狙う限り、引き返すメリットはないんじゃねーのか?」
確かにアルフレッドの言うとおりだ。
目的は達成なし、かといってメンバーも体力の消耗もなし。
ここで冒険を冒さなかったら冒険者ではない。
「ふむ。しかし俺には嫌な予感を感じるんだ」
「嫌な予感? トリスタンがびびるとは珍しいな」
「さて、どうかな」
二人の問答はいつものことだった。
でも俺にはどこを掘ればいいのか決断できる力もない。
誰か教えてくれよ。
"――――こっち――――"
何か聞こえた気がした。
"――――こっちよ――――"
「何か言った?」
「ジャック、どうした?」
「い、いやなんか聴こえた」
「おいおい、変なこと言い出すのやめろよ。ここは亡霊でも出るのかよ」
「こっちだ!」
夢で聞いた声だ。
その声は助けを求めるかのようなか細い声だ。罠の危険性も考えられるが、リベルタのメンバーは最強だ。
俺が罠にはまったところでこの人たちはすぐ助けてくれるはず。
「おい、ジャック!」
「ジャックの様子が変だ。追うぞ」
トリスタンとアルフレッドが俺の後についてきて他のメンバーもそれに合わせてきた。
「ここが、良い……気がする」
何の変哲もない道端。
特に怪しさもなく、目印らしいものもない。
ダンジョン内のただの通路だ。
「こんなところが? なんでそう思うんだよ?」
「うーん……勘かな」
訝しんだ視線を送るアルフレッドに対して何の根拠もない回答をした。
そりゃそうだ。
勘で判断しろと言われたんだ。
俺の勘がここと言ったからにはここが正解なのだ。
「ジャック、なんか様子が変だけど大丈夫?」
リンジーがそんな俺を心配して声をかけてきた。
「たぶん」
「うーん……なんか怪しいな。ドウェイン?」
リンジーがドウェインの意見を促す。
「特に霊源を感じないね。彼の率直な意見だと思うよ」
「そう、何かゴースト系に憑りつかれたのかと思った」
「それだったら僕が気づくから安心してよ」
「ならいいんだけど」
ドウェインの保証も下りた。あとは掘るだけだ。この下から囁く声に向かって。
…
各人、ロープなどを準備して、リンジーの魔法を待った。
リンジーは魔術師だ。
上級魔術であれば各属性一通り使いこなせる。さらに魔法操作の腕前は国内でも右に出るものはいないだろう、とはアルフレッドの言葉だ。
俺もそれは目の前で見せつけられたことがある。
炎属性中級魔術のファイアボール。
本来であれば周囲一帯を焼き尽くすために編み出された爆弾のような魔法だが、そのエネルギーを高濃度に凝集させてガーゴイルを一撃で葬ったのは俺もちゃんと目撃している。
今回はそれを採掘に使おうというわけだ。
でもエネルギーを爆散させてもダンジョンごと倒壊させてしまう。そこでリンジーの器用さをもって、うまく下にだけ穴をあけるのである。
「―――我が主はカノの力を借りし者、紅蓮に焼かれ、その身を転じる」
リンジーの透き通った声だけがダンジョン内に響いていた。詠唱とともにリンジーの目の前に炎の塊が回転しながら寄り集めまっていく。
「数多の戦火を鎮めても尚、カノの焔は振り注ぐ――――!」
より集まった炎が光り始めて、太陽に匹敵するほど眩しかった。
「刹那の劫火を! ファイアボールっ!!」
そして放った。
ファイアボールはゆっくりと標的である地面に着弾した。ここで本来であれば爆発するが、着弾したまま、爆発しない。
眩しい光源が目まぐるしく高速回転して地中に埋まっていく。
光源を感じられなくなり、周囲に暗闇が支配される。ファイアボールもかなり地中深くまで潜ったんじゃないか、というところで。
―――――ボン!
見た目とは裏腹に可愛い音をたてて爆発した。
地面から土壌が膨れ上がり、そのまま落下していった。
目の前に、見事に綺麗な穴が形成された。そして再度、リンジーは炎魔法の松明を灯す。
「さっすがリンジーだぜ!」
「いやぁ、あらためて見てもすごいなぁ」
ドウェインも同じ魔術師でありながらも感嘆の声をもらしていた。あのような器用な芸当ができる魔術師もそうはいないようだ。
「まぁね」
リンジーが得意げに笑顔を向けてきた。その眩しさはファイアボールとも並べるほどだ。
「じゃあ、ロープで下に降りるか」
リンジーは炎の魔法を穴に落としていった。
俺も、他のメンバーも、その様子を黙って覗き込んだ。しばらく下に行くと、広い空間のようなものが照らし出された。特に危険はなさそうである。
「よし、俺から先に降りる」
そこで一番手としてアルフレッドが名乗りを上げて、周囲もそれに同意した。俺は穴付近の地中にアンカーポイントを設置し、ロープをしっかりと固定した。それを穴へ垂らす。
リンジーは光源役だった。炎を二つ灯し、一層のメンバーを照らしながら、地下二層の方へも炎を送っている。
この芸当は簡単そうに見えて実はかなり難しいらしい。
右腕と左腕を同時に別々の動きをさせるような感覚だとか。
そしてアルフレッドが降りて行った。いつものことだが、アルフレッドは何かやるときに特に躊躇したりしない。
するするとロープで下の階層へと降り立った。
「よし、大丈夫だ。続け」
そうして他のメンバーも続いて降りていく。順番はダンジョンに入ったときと同様、トリスタン、リズ、リンジー、俺、ドウェインの順番だ。
しかしアクシデントは俺が降りようとしていたときに起こった。
「待て! 何か来るぞ」
声で制したのはトリスタン。下にいるメンバーたちは俺からは視覚になっている遺跡の先を見つめていた。そしてそれが徐々に驚愕の顔に変わっていく。不安に思って声をかける。
「なに?! どうしたの?!」
「おい、あの量はやばいぜ……」
アルフレッドの声に合わせて、ダンジョン内が振動し始めた。
ドドドと、下の方から大きな音が伝わってきた。俺はロープにしがみ付いているのだが、ダンジョン内の振動に合わせてロープも揺れ始めて、振り落とされそうになる。
「ジャックくん、今から下におりるのは危険だ! 戻ってくるんだ!」
ドウェインが手を差し出してくれたが、ロープの揺れが止まらずにうまく掴めない!
「………リズ! リンジー! 援護頼む!」
「うん!」
「分かってるわよ」
そうこうしている間に下では何か戦闘が繰り広げられているようだった。
「いくぜええええ!!」
リーダーの掛け声とともに眼下から炎が吹き上がった。
「ジャックくん、はやく手をつかめ!」
「は、はい!」
一方で、俺はドウェインの手を何とか掴んだ―――と思ったら下から爆発が響き渡り、ダンジョン内が大きく揺れた。
その衝撃で二人して穴に引き落とされる。
初めて味わう浮遊感に、思わず悲鳴が出る。
「うわぁあ!」
「僕の手を離さないでね!」
ドウェインはそんな狼狽している俺とは裏腹にとても落ち着いていた。俺を脇に寄せて抱えるようにし、逆の腕からはどこから取り出したのか、ステッキのようなものを下に向けた。
ばしゅっと何か空気が飛び出したような音が聞こえたと思ったら、いきなり自由落下の勢いがなくなり、体に衝撃が走った。
「うぐっ………!」
何度かその空気の圧が放出され、落下スピードは減っていった。
「ここまでくれば大丈夫かな」
「うげっ」
そしてぱっと腕を離され、地面に落下。ドウェインは俺の傍らで綺麗に着地していた。投げ捨てられた不満を述べるのも束の間、他4人のパーティメンバーの緊迫した雰囲気に俺も押し黙った。
数多の"牛"の壁が積み上がっていた。黒焦げになって倒れている。
その肉壁の先には通路の先の先まで、大量の牛鬼でひしめき合っていた。
――――ブォ、ブォ、ブオオオオオ!
いくつもの咆哮がそこらじゅうから響いてきていた。
「これが牛鬼か……なんかイメージと違うねぇ」
ドウェインは呑気に感想を言った。
牛鬼は、実物では牛の形をした土偶のようだ。肌が陶器で覆われて、ところどころ剥げ上がって腐った肉を晒していた。さらに体中には黒い魔力の結界が渦巻いており、魔族語の文字が周囲を浮遊してる。一体だけを観察すれば何とも神秘的な光景だが、あまりにも数が多いと醜悪だった。
「ドウェイン、今は感想を言い合っている余裕はねえ! 加勢しろ!」
「……この数はちょっと無理なんじゃない?」
「また来るよ!」
リンジーの忠告に合わせて牛鬼の突進が始まった。肉壁がいよいよ崩壊し、何頭ものモンスターが押し寄せる。動きはグリズリーほどの俊敏さはなかったものの、その気迫に近しい。
「フレアカーテン、オープン!」
リンジーは炎のカーテンを広範囲に展開させて牛鬼に牽制を入れた。でも、牛の突進は止まらない。
「リボルバーで迎撃するわ」
リズは腰に下げた矢筒から一本一本、矢を弓に装填して連写した。さらにその一本一本の矢に電撃魔法を加えている。電撃の尾を引いた弓矢が牛の腐った肉に突き刺さり、一頭一頭、正確に痺れさせていた。
でも数が多すぎる。
牛鬼は同族の転倒に構うことなく、その身を突き飛ばしてもリベルタのメンバーに襲いかかってきた。
「ここは私には不利ね……」
リズは遠距離サポーターだ。
多勢を相手にするには少々難しい様子。
そこにアルフレッドとトリスタンが牛鬼の群れに飛び込む。
トリスタンは淡々と一太刀で絶命させている。向かってくる数が多いものの、トリスタンの斬撃で次々と倒していった。
一方、アルフレッドは技で倒すというより力でごり押しするような感じだった。斬るというより叩いているように戦うのは彼のいつもの戦い方だ。
時折、剣戟から炎が舞いあがり、焼き斬っている。
「……くっ、こいつはきりがねぇな」
「―――刹那の劫火を! ファイアボール!!」
リンジーが気づけば詠唱していた。得意のファイアボールが高速で群れの中心に向かい、着弾した。
大爆発が起きて、また肉の壁が詰み上がった。
群れが少し減ったのか、若干の小休止モードに入る。
「アルフィ! あの奥を見て!」
リンジーが放ったファイアボールで燃え上った炎の先を指差した。
肉の壁の向こうにはまだ多数の牛鬼が次の突進に備えて前足で地面を蹴っていた。その牛鬼たちのさらに向こうに虹色の鮮やかな光を放つ石が壁という壁からゴツコツと突き出していた。
「魔石じゃねえか」
アルフレッドはお宝を発見した野獣の目を向けた。
「でもまだあんなに……」
「くそっ!」
牛鬼の数は一向に減らない。むしろ増えているようにも見える。
奥地からどんどん集まってるみたいだ。
「アルフィ、もうポーションもかなり使っちゃったよ」
「なんだと?!」
「だってファイアボールさっきので三発目だよ?」
リンジーだけじゃない。トリスタンが呼吸を乱して疲労の表情を浮かべていた。リズも矢筒の矢を消費しつくしていた。彼女なら代用で氷の矢を生成できるが、魔力消費が激しい上に大群戦には不利だ。
冷静にパーティメンバーの顔を見ると、かなり消耗している。
この俺と一人の男を除いて。
「ちっ……出直しだな! 敵の様子とお宝の所在も分かったんだ! 成果はかなりでかい!」
引くときには引く、それがアルフレッドだ。決して宝に目がくらんで突っ走るリーダーじゃない。
しかし俺の隣にいる男は何もしないのだろうか?
「ところでドウェインは何もしないの?」
「僕はこれからが役目だけど」
「え?」
「よし、それじゃあドウェイン、頼んだぜ!」
「了解……!」
そういうとドウェインは自身の周囲に魔法陣を展開させた。緑色の薄明りが地面に浮かび上がり、幾何学的な円形模様が見えた。
そこにパーティメンバーが急いで集まってきた。
同時にその場で威勢を振るっていた牛鬼たちの突進が再開した。
凄まじい突進音とともに多数の魔物が迫りくる。
「ドウェイン、はやくしろって!」
「はいはい――――じゃあいくよ! トランジット・サークル!」
ドウェインは魔法陣の中心に片手を当てて魔力を放出した。地面からの眩しい光に包まれて、世界が歪み出した。
――――あ……。
世界が止まったかと思った。
牛鬼たちは突進する勢いをピタリとその場で止めて、空中で停止している個体もいた。他のメンバーも時が止まったかのように固まっている。なぜか俺だけ体が動かせて、周囲を見渡せた。
"――――行かないで――――"
「え……?」
制止した牛鬼の大群の隙間から、夢で見た少女が立っていた。
心なしかぼんやりと光を帯びている。
淡いピンクのような紫のような長い髪がふわふわと漂っていた。
なんだ、あれ。
幽霊?
"――――お願い、待って――――"
でも一瞬で光に包まれた。気づいたときには、一晩だけ寝泊りしたあの空洞に辿り着いた。どうやらまだダンジョン内のようである。
「ふぃー……無事に起動してくれたようだね」
ドウェインの声が耳に届いた。
「あぁ、ちくしょう! もうちょっとだったのによ」
「いやまだあんなに沢山いたんだから無理だよ!」
「まぁ善戦した方じゃない? あれだけの魔石の山、かなりの儲けになるわよ」
各々は何のこともなく、感想を言い合った。
さっきの少女の亡霊は何だったんだ……。
「今のは何?」
俺は興奮冷めやらぬまま、ドウェインに聞いた。
「なにって、転移魔術だけど」
「………転移魔術?!」
俺の混乱をよそにドウェインが解説を始めた。その転移魔術という響きに俺はちょっとロマンを感じた。
「あの手の魔術はあまり使える人がいないんだよねぇ」
ふふん、とドウェインにしては珍しく得意げな笑みを浮かべた。
「時空に関係するから難しいんだよ。僕は事前に描いた魔法陣の地平面と、その場で描き上げる魔法陣を反地平面にして結ぶことができるんだ。これには負のエネルギー解釈と魔力吸収のスキルが必要なんだけどね」
正直なにを解説しているのかさっぱり分からない。結局、ドウェインの解説からはあの少女が何だったのかも知る由もなかった。
「とりあえず切り上げるか。あ、さっきの下層への穴は蓋しておこうぜ」
さっきまで牛鬼の大群との攻防が繰り広げられていた現場の上空、リンジーが作り上げた穴まで戻る。騒々しさは失われて、穴の下は静寂に包まれている。でもなんだか焦げ臭い……。
その穴に、テントに使っていた大きな布で蓋して土をかぶせた。街へ戻って他のパーティーが来たときに先を越されないためだ。
ただの通路でしかないので、ほとんど気づかれることはないだろう。
○
夕方にはダンジョンを脱出し、その足でダリ・アモールの街へと帰還した。すっかり夜も遅い。
昼間は夏の太陽が照りつけて彩り溢れる街を形成していたが、夜も夜で街灯が点々と灯り、夜の静けさと相俟っておしゃれな雰囲気を作り上げていた。俺はダンジョンから帰ってきたばかりだというのに、数日後の演奏会にわくわくしていた。
こんなおしゃれな夜に響き渡るメドナさんの綺麗な歌声。
想像しただけでも身震いする。
「今日はみんなごくろうだった。とりあえず今日は宿で体を休めて、また再潜入の準備に入るぞ」
「待って、アルフィ」
「なんだ?」
「お金、けっこうやばいよ」
リンジーはこのパーティの会計係も担ってる。
「シーズンみたいでこの街の宿代が高いんだよね。それに今日の消耗品を再調達したら……」
「のんびり過ごしてられないな。準備を早めて明後日ぐらいにはもう出発するか」
「でもジャックとの約束、忘れたの?」
「ん、あぁ~……」
俺の頼みで宿代が高く嵩張っているのか。一番の下っ端としてここはやっぱりお祭りは諦めるべきなのか?
「フレッド、俺の我がままは聞かなくても――――」
「いや、男に二言はねえ。約束は守るぜ」
「ほんと!?」
さすがアルフレッド。これでこそ我らがリーダーだ。
「減るもんは減らす。無いものは稼ぐ、だ」
「どういうこと?」
「つまり、前夜祭と祭りには参加するにはあと五日あるわけだ。五日分の宿代を減らして、五日間は稼ぎに徹する」
「ちょっと待ってよ。宿代を減らすってどうするのよ? 野宿は嫌よ。疲れてるし」
リズが真っ向から反対。
「まぁ待て。今回のダンジョンで分かったことがある」
「なにが分かったの?」
リンジーがふと問いかけた。
「まずトリスタン、お前はあのダンジョンに要らねえ」
「なっ……」
反応したのはトリスタンではなく、リンジーだった。
「酷いこと言うわね。トリスタンもかなりの敵を倒してくれたじゃない」
「―――同感だな。俺も同じことを考えていた」
しかしトリスタンはアルフレッドの意見に賛成した。
「こいつを見ろ」
トリスタンは腰の剣を引き抜いて、その刃を見せた。
かなり刃こぼれして、使い物にならなくなってる。
「あのモンスターは硬い。どうやら炎が弱点のようだが俺はフレッドのように刀剣に魔法を纏わせるなんて芸当はできんからな」
「そんな……」
「あんな戦いを続けていたら鍛冶代の方が馬鹿にならない」
余裕そうに戦っていたのに、トリスタンは剣が刃こぼれして消耗する中、かなり頑張っていたようだ。
「まぁ、そういうことだ。祭りにも興味がねえみたいだしな。トリスタンは先に帰ってろ」
「承知した。留守を預かろう」
「待ってよ。それなら私だってあの大群には不向きだわ」
リズがそこで名乗りをあげた。
「お前は必要だ」
「どういうこと?」
「まぁそれは明日話す。それに祭りにも興味あるんだろ?」
「えっ……ま、まぁそれはそうだけど」
リズは思わず顔を赤らめた。子どものようにお祭りを楽しみにしていることが気づかれて恥じらいを感じたようだった。
そうしてトリスタンだけ別行動をすることとなった。
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