聖なる光の魔法4





















「まさか無事に戻れるとは思ってなかった。本当によかった」


 シバの声がする。


「全くですわ。本当に、なんて無茶を。私が目を逸らした隙に、こんなことになっていたなんて。冷や冷やしましたわ」


 ローラが呆れたようにため息を吐いている。


「過去の戦い方を聞いても、自ら鉛玉になってぶつかっていくようなことが何度もあったようだし、俺たちが何を言っても聞かないような雰囲気だった。けど、どうにかなって本当によかった。ホッとした」


 失礼な物言いは、ジョーだ。


「頼りなくはあるが、こんなに真っ直ぐでは憎むに憎めない。あの調子で最後まで突っ走るつもりなのかもしれない」


 今度はレオが、すっかりくたびれたような声で言った。


「それにしても、いつの間に聖なる光の魔法を身につけたのでしょう。私たちがリアレイトで戦ったときは、そんな力は一切見せなかった。短期間に身につくような魔法ではありませんから、元々使えたが使っていなかった、ということなのでしょうか」


 ルークの声が近くで聞こえる。

 ローラはそうねと小さく息を吐いて、


「隠されていた力を、ようやく発揮してきたと考えれば納得できるかもしれませんわね。彼は自分の力を使いこなせていないだけのような気がしますわ。それにしても、あんな力、彼はどうやって手に入れたのでしょう。普通の干渉者が持てる力ではありませんわ。以前は金色竜と同化していたと聞きましたが、今、その竜は居なくなり、同化は解けているのでしょう。つまり、あの力の上昇は、竜との同化とはあまり関係がないのではなくて?」


「いや、そうでもない。やっぱり、竜と同化すれば格段に力は上がる」


 とシバ。


「けれど、今は同化する竜も居ない。ま、“表”ではしっかりと身体を奪われてかの竜と同化してるわけだが」


 そこまで聞いたところで、ゆっくりと目を開けた。

 船室のベッドの上。また運ばれてしまった。一日に何度も、ホントに申し訳ない。

 けれど、声の主たちは、俺のベッドじゃなくて、もう一つ、通路を挟んだ先にあるベッドの辺りで話し込んでいる。その上で寝ているのは美桜。彼女の横顔が人影の間から見えてホッとする。

 夢じゃない。どうにか俺は美桜を救った。

 こんどこそ、間違いなく。

 そう思うと、どっと疲れが出た。色々と苦しいことが続きすぎて、達成感というヤツを感じる余裕もなかったのだ。


「あれ、起きてる?」


 シバが気付いて近づいてくる。

 俺は右手を軽く挙げ、シバに答えた。


「ルークが治癒魔法かけてくれたようだけど、ちょっと遅れていたら半身不随だったかもって。無茶しすぎだ」


「ア……ハハ。そうか。酷かったな」


 あまりの激痛だったから、どこか打ち所が悪かったんだろう。けど、どうにかこうにか命拾いした。それは単純に、良かったと言うべきなのだろう。


「美桜は」


 彼女の名を言うと、彼女と俺の間に立っていた数人が移動して、俺のベッドからも見えるようにしてくれた。美桜は寝息を立て、ゆっくりと眠っているように見える。


「“表”のときのように中途半端に戻ったりはしていない。見た目はすっかり元通り。けど、未だ目を覚ましてはいない」


 シバが神妙に解説してくれる。

 彼女にとって、竜化はかなりの身体的負担だったに違いない。

 恐らく、俺の身体を借りたかの竜が、あの夜に施した魔法のせいで、彼女は再び竜の姿になってしまった。その後、どういう経緯か時空の狭間である黒い湖に辿り着いたところで、聖なる光の魔法を浴びたということなのだろう。

 ローラが湖に向かうと言わなければ、美桜と再会することもなかったのだろうからこれは全くの幸いだった。


「湖を浄化したことで、かの竜の力が少しずつ弱まるはずと踏んでいるのですけれど、それが証明されなければ次の手を打つのは難しそうですわね」


 ローラが難しそうな顔で深くため息を吐いた。


「証明、と言っても、実際かの竜の力を確認しようとするならば、“表”へ向かうか、それとも救世主殿にかの竜の中に戻っていただくか。どちらにせよ博打でしかないのでは」


 レオも唸っている。

 そうだ。

 俺の意識は“表”へ飛んでいた。そうして自分の身体に意識を戻し、ドレグ・ルゴラの中の変化を垣間見たんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る