奥の手3
「船が復元された後、今度はリョウ様の記憶を辿っていただきます。砂漠の果て、大地の淵まで行かれたという話を伺いました。その位置情報が知りたいのです。帆船を転移させ、直接乗り込みます。たくさんの人間を一人ずつ転移させるよりも、帆船ごと転移させる方がずっと簡単な魔法で済みますし、何より砂漠で何かあったとき、大きな帆船の方が何かと対処しやすいでしょう。能力者たちを大量に連れ出し、黒い湖に聖なる光の魔法を注ぐ。このとき必要になってくるのが竜石のもう一つの力。どのくらいの面積があるのか、どのくらい大量の水があるのか、私にはピンときません。けれど、とにかく大きいのでしょう、その湖は」
「ああ、デカいってもんじゃない。海のような」
「うみ?」
「湖というよりは海のような、けどアレは海じゃなくて」
潮の匂いがしなかったから、湖だと思ったのだろうか。生命の育みや包まれるような壮大さを感じなかったから、海ではないと判断したのだろうか。押し寄せる波もない、引く波もない。真っ平らな黒い水面がどこまでも続く光景に、俺はあのとき、咄嗟に湖だと。
「そんなに大きいんじゃ、浄化なんて絵空事で終わりそうだ」
唯一海の広さを理解するシバが、ローラの側で屈んだまま俺を見上げる。
俺もあの光景を思い出し、少し首を傾げた。
「汚れた水を浄化するにはその何倍もの水を必要とする。黒い水を浄化するにも、並大抵な魔力では難しいだろうな。あとは能力者の力量と、竜石の力次第、か」
「いいえ、もう一つございますわ、リョウ様」
とローラ。
「“心の力”。この世界では、思いの強さがそのまま力に反映されることをお忘れですか。ドレグ・ルゴラを倒し、平穏を取り戻すために皆一丸となって魔力を注げば、きっと浄化できます。私たちは信じ続けなければならない。それを忘れれば、あっという間に邪念に支配されてしまうのです」
そうだった。
ここはレグルノーラ。信じる心が力になる世界。できないと思っていたら何もできない。できると信じたことが現実になる世界。
「黒い水さえ浄化できれば、分厚い雲も消える。少し遠回りかもしれないけれど、かの竜が“表”にいる今が絶好の機会なのではないかと思うの。……どうかしら」
ローラは、シバとグロリア・グレイ、俺の順番で同意を求めた。
彼女が無計画に竜石のもう一つの力を求めているわけではないということに理解を求めると同時に、これ以外浮かばなかったのだという切迫感も伝わった。
これ以上の策があるかといわれれば、恐らく皆無だ。真っ正面から戦ったところで、ケチョンケチョンにされるのがオチ。ならば、外堀から攻撃してやろうってことらしい。作戦としては悪くない。
「……それで行こう」
俺が言うと、シバもうんうんと頷いた。
「それしかないだろうな。“表”ではとてもじゃないが、まともに戦える自信はない」
「そういうこと。まずはこっちでやれることをやる。そうしてヤツが弱ったところを見計らって、身体を取り戻す」
「……身体を? どういう意味だ」
「ああ。身体をかの竜に乗っ取られた。俺の本体は“表”。この身体は意識を具現化させた状態。つまり、シバ、お前と同じってこと」
「――はぁぁああ?!」
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