【27】君の居ない世界を憂う
123.非情な現実
非情な現実1
崩れた校舎の壁が塊になって校庭に落ちた。地響きと共に砂煙が巻き起こり、大穴から噴き出す黒いもやと混ざって視界を塞ぐ。咄嗟に腕で顔を守り、突風に堪える。
校舎の上を我が物顔に歩き、時に咆哮する白い竜。まるで悲しみと絶望に打ちひしがれたかのような悲痛な叫びが空気を震わしていく。
その鳴き声に呼応するかのように、グラウンドの真ん中に空いた巨大な穴から骸骨兵が次々と姿を現す。結界を張ろうと魔力を高める俺と陣に襲いかかろうとするのを、裏の干渉者たちが必死に食い止める。聖なる光の魔法を帯びた剣や銃が次々に骸骨兵を仕留めていく。しかし、無尽蔵に湧き出る魔物たちに、彼らは既に疲弊しきっているように見えた。
――“レグルノーラと時空の狭間に関する一切を翠清学園高校の敷地内に封じ込めよ”
かなり強引な文字を、俺は魔法陣にレグル文字で書き込んだ。これには陣も苦笑いしたが、もう本当に、それしかなかったのだ。
高校の周囲には住宅密集地が広がっている。もし結界が成功しなければ、被害は更に拡大してしまうだろう。とにかく今は、あの白い竜が羽ばたいてどこかに飛び立とうとしたときに、それを防ぐくらい頑丈な結界を張らなければならない。
分厚い強化ガラスを二重、三重にするイメージで、敷地を囲う巨大な結界を作り出していく。
「サンクス、陣。あとは骸骨の方頼む!」
魔法が成功したことを確認して、俺は陣にそう言い放った。
「頼むって、君はどうするんだ」
走り去ろうとする俺に、陣が背中から声をかけた。
「俺はあの白い竜を止める!」
「止めるったって! 凌!」
陣を無視して俺はグラウンドを駆けた。
白い竜は、なおも校舎の上を移動していた。四棟ある校舎の二つ目の真ん中辺りでまた立ち止まり、空を仰いだり尾で校舎の壁を叩いたりしているのが見える。
具体的にどうしたら良いのか、プランは全くない。けど、生徒が残っているかもしれない校舎をこれ以上壊されたら大変なことになるに違いないのだ。
――バンと、校舎の一部が破裂した。あれは二階にある二年の教室。背の高いイチョウの木が並ぶ一角。まだ白い竜は到達していないのに、何が。目線を移すと、教室の崩れた壁の中に人影があるのが見えた。
逃げてないのか。俺は咄嗟にそう思い、背中の羽を広げて一気に飛び上がった。
「大丈夫か!」
声をかけた瞬間、黒い空気の塊が真っ正面から俺を襲った。
バランスを崩し弾き飛ばされるも、必死に堪える。空中で静止し、改めて教室を覗くと、男子生徒が数人、ケタケタと笑い声を上げて立っているのが見えた。
「何コレ、超面白い」
思いも寄らぬセリフに、俺は耳を疑った。
何が起きているのか直ぐには理解できなくて、俺はしばらく呆けた顔をしてしまっていた。
「何あいつ。空飛んでやがる。撃ち落とそうぜ」
誰かが言った。
人影が一斉に俺の方を向く。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は!」
言うやいなや、次々に黒い塊がぶつかってくる。様々な威力の玉が遠慮なしに来るのを、俺は咄嗟にシールド魔法で弾き飛ばした。それがまたヤツらのツボに入ったらしい、彼らはまたケタケタと俺を指さして笑っている。
『あの黒いもやのせいだ』
テラが言った。
『黒い感情を含んだもやが、彼らに力を与えてしまった。凌、無視しろ』
その方が楽に違いない。けど。
白い竜が近づいてきている。このまま進めば、この場所も犠牲になる。三階建て校舎の最上階、彼らは間違いなく竜に踏み潰される。わかっていながら無視するなんて、俺にはできそうにない。
俺は身を屈め、崩れた壁の隙間から教室内に入り込んだ。なぎ倒された机と椅子があちこちに散らばる中、男子たちの隙間を縫って着地する。羽を畳んでグルッと周囲を見渡すと、彼らは怯んで攻撃の手を止めた。
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