標的4
「話を戻そう。ところで校内のゲートは、どんな感じなんだ? 穴が広がりやすくなってるって聞いたけど」
どうにかこうにか口角を上げて喋ってみたが、目が笑っていなかったのか、皆何か言いたげにこちらを見ている。
気にするな。
俺は自分に言い聞かせながら、元の席に戻っていく。
「完全に塞ぐには力が要ると聞いた。穴が開きやすいゲートがあるなら、協力する。どこが一番危なっかしいんだ? やっぱり2-Cの教室か?」
ドカッと腰をかけて余裕を演出してみせるが、皆の表情は硬い。
動揺を隠しきれていない。
「補習で使用しているようなら、それが終わってからでも行ってみようか。裏の干渉者からみて、一番厄介なゲートを教えてくれ」
レオたちに顔を向ける。
さっきまでと俺を見つめる表情が確実に違う。
「もしかして……、興奮すると、竜化してしまう、とか」
ルークに言われハッとした。
竜化。
どこが。
慌てて顔をさする、その腕の一部に鱗が浮き上がっている。
牙、角、耳。
中途半端に竜化して。
ダメだ。落ち着け。落ち着け、俺。
「来澄、テラに何か言われたのか?」
芝山が聞いてくる。
「別に、何も」
「嘘だ。“キース”の名前を聞いた途端、お前の身体の様子がおかしくなった。テラが頭の中で何か言ったんだろ。だから急に興奮して」
「だ、大丈夫だ。上手く力をコントロールしきれなくて。発作みたいなもんだ」
悟られてはいけない。
俺が、俺の身体がかの竜の標的だなんて。
「何を隠してる。来澄、君はいつもそうやって」
半端に竜化した俺を恐れることなく、芝山は俺の前に立った。芝山だけだ。どんな姿になろうと、対等に話そうとするのは。
「モニカ、ノエル。君たちは知ってるんじゃないのか。“向こう”ではこういうこと、なかったのか。同化してから先、君たちの方が来澄と長く居るんだから、何か知ってるんだろう」
「いいえ。救世主様が竜化するのは戦闘の時だけで」
「ああ。しかも、竜化には逆に手間取っていることが多かったような」
モニカとノエルが視界の外で必死に弁明している。
そう、彼らは何も知らないんだ。俺が追い詰められて悲惨なことになってることなんて、何にも。なんとなく察してはいるみたいだけど、それ以上のことは。
「しかし、頼りの救世主殿がこれほど不安定な状態だとすると、我々も他の手を考えなければならないかもしれないな」
レオがため息交じりに言うと、ルーク、ジョー、ケイトは口々に、
「全くですね」
「聞いていた話とは違う」
「どうしましょうか」
と言葉を零している。
『落ち着け、凌』
わかってる。落ち着こうとしてる。
テラに言われなくても、ちゃんと落ち着こうと。
『呼吸を整えろ。人間の姿をしっかりと思い出せ』
そうだ。身体の中にテラが入り込んでいるとはいえ、常時人間の姿を保てていた。竜石にしっかりと力を閉じ込めておけばこんなことには。
今、敵が目の前に居るわけじゃない。
戦うことを考えてはダメだ。
徐々に、徐々に、自分の身体が元に戻っていくのを感じる。腕が肌色を取り戻し、牙や角が引っ込んでいく。頭のあちこちを手で触りながら確認し、ようやく元に戻ったと確信できたところで顔を上げると、まだ周囲は複雑な顔をして俺を見ていた。
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