光3





















 白い、一筋の光が頭に浮かんだ。

 冷たく閉ざされた世界に意識を放り込んでいた俺は、そのまばゆさに堪えられなかった。


「絶望するには早すぎます」


 モニカの声だ。

 凜とした透き通るような声は、冷えた俺を一生懸命に暖めようとしているようにさえ思えた。


「このままでは、かの竜の思惑通り。いいですか、救世主様。私たちは悪い夢を見させられているのですよ。絶望の先に何があるのか、かの竜はそこに興味があるのでしょう。夢と現実の判別ができないところに私たちを追い込んで愉しんでいたのです」


 どういう……意味だ。


「つまりですね、私たちが連れ込まれたのは黒い湖の底。救世主様には“リアレイト”に見えたあの湖の底に、私たちは連れて行かれたのです。迂闊でした。時空の狭間と呼ばれる意味を、私たちは真摯に捉えるべきでした。脱出を試みます。少々手荒な真似をしますが、堪えてくださいね。正直、私はこれほどに自分が力を持って生まれたことに感謝したことはありません」


 白銀色に輝く魔法陣が闇に浮かぶ。

 これが脳裏に描かれたイメージなのか、それとも現実なのか、残念ながら全く判別ができない。

 ただ、魔法陣から優しく温もりある力が溢れているのだけは、しっかりと感じ取れる。



――“聖なる光よ、我らを護り給え。

   混沌たる黒い湖の底から我らを救え。

   行くべき場所へ我らを運び、そして、真実を見せよ”



 一つの魔法陣に書き込むには情報量が多すぎだ。発動させるのに時間はかかるし、そこに注ぐ魔法量も多くなる。

 けれどモニカは躊躇しない。

 真っ暗闇で姿は見えないが、彼女の清らかな力だけはひしひしと伝わってくる。

 “聖なる光”の魔法は難しい。

 イメージを具現化させる方法の一つが魔法だとして、清らかで濁りのない“聖なる光”を出現させるには、術者がまず透明でなければならない。どんなに力を持っていたとしても、どこか濁っていたり、汚れていたりしたら操ることはできないのだ。

 モニカは純粋だ。透明で、清廉で、潔白で、美しい。

 塔の魔女になるべく努力を重ね、それでも候補から外れたというのに、彼女はその過去を恨んではいなかった。ただ残念がって、それでも前向きに進んでいる。そんな彼女の力が美しく白銀色に輝いている。

 全ての文字が刻まれ、一層光が強くなってく。


「救世主様が何を見せられていたのか、私にもノエルにもわかりません。ですが、これだけは言えます。かの竜の罠にかかってしまえば、全てが無駄になる。私たちは何故こんな所まで来たのか、思い出してみては如何でしょう。大丈夫、誰も責めたりはしませんよ。皆知っています。救世主様が必死に歩んでこられたことを。どれだけの人を救って、どれだけの人を勇気づけたかを。さあ、魔法が発動します。もう少しです。真実が、そこに」





















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