想定外2
金色に光る魔法陣、ノエルの炎の魔法が放たれた直後に天から激しい稲妻が降り注いでいく。魔法の炎がヘドロの塊の上を走るようにして広がるが、直後にかき消される。
効かない。
物理攻撃も魔法攻撃もまるで効かない。
何だ。
何だコイツ。
「う……、嘘だろ」
ノエルが呟く。
「これが嘘ならどれだけ楽か」
もう既に汗だくだ。変な汗。勝てる見込みがないから、全身が拒絶反応を起こしている。
いっそのこと、この化け物ごと船から降りてしまえば。とは思いつつ、高速で進む帆船を止めるには、まず
『来澄……』
ふと、名前を呼ばれた気がした。
俺は耳をそばだてて、必死に周囲を伺う。
『どうした? 凌』
頭の中でテラが聞く。
「今、声がした。俺のことを『来澄』って」
『凌、ではなく?』
「そう呼ぶのはシバだけだ。てことは……?」
甲板には既に人影はなかった。あまりのおぞましさに、乗組員たちは皆、船内へと逃げ込んだ。俺とモニカ、ノエル、そして化け物だけ。当然船長室にいるものだと思っていた
『来澄が死ぬ気で戦っているのに、私は逃げるのか……?』
「ほら、また聞こえた!」
同意を求めて振り向くが、モニカもノエルも頭を左右に振る。
『嫌だ。逃げたくはない。かの竜の影の真下まで進まなくてはならない。そして、この世界の謎を解明する。そうすることで、何故二つの世界は繋がっていて、かの竜が化けたというあの男が何故私に砂漠の果てを目指すよう仕向けたのか、その理由がわかるはずだ。来澄には来澄の使命がある。私には私の使命がある。逃げてはダメだ。ここで逃げてしまったら、全てが無駄になってしまう』
間違いない。
この声はシバ。帆船の
芝山とは似ても似つかないが、妙に責任感が強くて、理屈っぽくて、頑固で人の話なんか聞いてるんだか聞いてないんだか。だけど仲間意識はものすごく強い。大事なモノは命懸けで守る綺麗な男。
シバが、どこかにいる。どこかで必死に戦っている声だ。
「聞こ……えません。ノエルは?」
「いや。全く」
『私は聞こえている』とテラ。
『恐らく凌の身体に直接語りかけているか、もしくはこの身体が直接感じ取っているか。君はシバと親しい。だから聞こえるのでは』
なるほどね。
ちょっと常識的には考えられないけど、この世界ではあり得る。
「俺にしか聞こえない。ってことはつまり……?」
「シバ様は何者かに自由を拘束されている……? ちょっと待ってくださいね」
魔物が天を向きブルブルッと身震いしている間に、モニカがサッと魔法陣を描く。
――“自由を奪われし者の姿を我らに示せ”
緑色の光が甲板全体に広がり、俺たちは目を凝らしてシバを探す。
マストの陰に人。けど違う、シバじゃない。逃げ遅れたのは……いや、隠れているのは。
「ザイル! 逃げろ馬鹿!」
俺が声をかけると、ばつが悪そうにそろりそろりと荷物の裏を通って船室へ逃げ込んでいくのが見えた。いい年したおっさんなのに世話が焼ける。
じゃなくて。
シバは。
「お、おい! リョウ! アレじゃないのか!」
ノエルが指差した先。
ぐったりと力が抜けたように宙に浮く人型。
その場所に、俺は言葉を失った。
モニカは短い悲鳴を上げた。
ヤバい。
それ以上の言葉が浮かばない。
嘘だろ。
嘘だって言って。
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