竜石4
モニカとノエルに合図し、荷物から道具を取り出した。
原石をツルハシやハンマーで砕いていく。大きめの原石を中心に採掘しようと試みたが、非常に硬く思ったようにひびが入らない。アナログ作業だけでは1kg程度の塊を掘るのに一時間近くかかり、途方もない作業をしなくてはならないことを思い知らされた。
電動式のドリルも用意していたが、一度の充電で動かせる時間に限りがあり、モニカが魔法で発電機を取り寄せ、そちらも併用した。
アッシュとエルクも合流し、交替で掘っていく。
掘り進めるチーム、外に運び出すチームに分かれ、適度に休みながら掘り続ける。
面倒くさいとぼやきながら、テラも手伝ってくれる。本当は嫌に違いない。自分と同じ竜からできた石を、延々と掘るのだから。
小型の台車に掘った石を積み込み運ぶだけでも、かなりの時間が必要だった。魔除けの呪文が途中で切れ、洞窟コウモリや大蜘蛛に襲われてみたり、台車が壊れて修理しながら運んだりと、トラブル続きだった。
何故か上機嫌のグロリア・グレイは、モニカを引き連れ宮殿で飯を振る舞ってくれた。食材はモニカが魔法で取り寄せたものだったが、まさか洞穴の中で温かい飯を食えるとは思っていなかった俺たちにとっては願ったり叶ったりだった。
ときにテラとグロリア・グレイが二人きりで難しい顔をしてにらみ合っている場面もあった。二人は多くを語らなかった。
作業は数日に及んだ。正確な時間はわからなかったが、相当な時間を割いて、俺たちは竜石を掘り続けた。
やがて、洞穴の外に置いた車両の荷台が竜石で満杯になる。
最後の石を台車に積んで、俺たちはグロリア・グレイの居る宮殿へと戻っていった。
宮殿の中を抜けると、最初に出会った通路の真ん中で、彼女は待っていた。
「終わったのか」
彼女は振り向き、凜とした顔で俺たちの顔をひとしきり見ていた。
「ありがとう。お陰様で、無事終わった。必要な分だけ貰っていく。大事な石だ、しっかり使わせて貰う」
俺が言うと、グロリア・グレイは眉毛をハの字に曲げてため息を吐いた。
「寂しくなる」
それはまるで、卵と石を守る竜には似つかわしくない言葉だった。
「我はまた、無言の番をせねばならぬ。
「呪いなど気にせず洞穴から出れば良いだろう」
今までタブーを犯し続けてきたテラらしい言葉。
けど、グロリア・グレイは首を横に振る。
「我は、命が惜しい。死んでしまえば、
目に涙が溜まっている。
凶悪な竜だなんて、テラが勝手に言ってただけなんじゃないだろうか。殺されかけたことも忘れて、俺はそんな風に思っていた。
孤独な竜。
また、闇の中でじっと卵や石と過ごすだけの日々が始まる。
「グロリア・グレイ」
俺は初めて、彼女の名を呼んだ。
「ありがとう。今度は是非、穏やかに会いたい」
スッと、右手を差し出した。彼女は俺に手を差し出し――、そのままグンと俺の身体を自分の胸へと引き寄せた。
「グレイ!」
テラが叫んだ。
モニカとノエルが悲鳴を上げた。
気が付くと、俺の唇はまた、彼女の唇に重なっていた。
両手を背中に回され、雁字搦めにされて、舌を入れられ、舐め回される。
人前だ。
テラも、モニカも、ノエルも見てる。アッシュもエルクも、みんなみんな、俺たちの方を見てるってのに。
俺とグロリア・グレイを引き剥がそうと、テラが必死に俺の身体を引っ張るが、一向に離れない。それどころか、彼女の行為は更にエスカレートし、背中から頭から、腰から腹から、更に股間まで、ありとあらゆるところを触ってくる。
ちょ、ちょっと待って。抵抗はできないし、恥ずかしいしで、俺は一体どうしたら。
「やめろ! グレイ! この色魔め!」
テラが耳を引っ張ったところで、ようやくグロリア・グレイは俺から唇を離した。
「何をする! 別離の接吻ぞ」
「嘘を吐くな! このまま押し倒してやるところまでやろうと思っていたくせに!『誰かの前だと更に興奮する』と押し倒されたことを、私は忘れていないからな!」
「あの頃の
「うるさい! とにかくもう、凌には手を出すな! わかったかこの変態女!」
二人の間にはあまり聞きたくない関係があったようで。
どうにも、凶悪の意味がちょっと違ったらしい。
緊張の糸が切れた俺たちは、力なくただ笑うしかないのだった……。
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