竜石3

「墓……場……?」


 竜の骨が見えた。地面や壁のあちこちからいろんな骨が突き出ている。頭の骨、胸の骨。羽や尾の骨もある。それも一体分じゃない。細長く広がる洞穴のあちこちに、無数の骨がむき出しになって現れていた。

 骨の周りには、硬い原石のようなものがくっついている。黒ずんだ石、くすんだ石。その一部が削れ、中から様々な色の光がほんのり漏れているのもある。


「竜石って、もしかして」


 ノエルはそこまで言って黙りこくった。


「もしかしなくても」


 モニカの声は震えている。


「竜石は、竜の死体が長い年月をかけて溶けてできたもの。この洞穴は、かつて無数の竜が死に場所として選んだところ。気高い竜は死体を獣に喰われるのを恐れ、洞穴の奥でひっそりと死んだのだ。竜石はすなわち、竜の欠片。そんな大切なものを、何故易々と人間などにくれてやれようか。数百年前、ゴルドンがやはり一人の青年を連れてこの地を訪れたときも、私は同じ話をしたのだぞ。その様子では、全く覚えてはおらんようだがの」


 グロリア・グレイの重い言葉が、洞穴に反射して良く響いた。


「竜はこの世界に縛られている。あの人間の女は、塔の呪いにかけられていると言った。世界を守るために全てを捨て、命を捧げる呪いだという。誰が呪いをかけたのだと聞くと、世界が呪いをかけているのだと。この世界を包む大いなる意思が、様々なものを縛り付け、様々なものに呪いをかけているのだと。妙な話ではないか。世界に意思など存在しない。だが、女はこうも言った。竜でさえ呪いにかけられている。竜は人間と契約することで呪いにかけられる。竜として気高く生きることを失った罰として、卵に還る。我は、この哀れな竜たちの守番なのだ」


 生と死。

 この洞穴が寒々しいのは、竜たちが眠っているからなのか。


「塔の魔女を名乗ったあの女は、大いなる意思などとのたまったが、我はドレグ・ルゴラがその一因ではないかとふんでいる。我々竜が卵に還るようになったのも、塔の魔女などという人柱が存在するようになったのも、さほど昔ではない。嫉妬深い白き竜が世界そのものに呪いをかけたのだとしても、何らおかしい話ではない。うぬらが我々竜をこの呪いから解放できるとしたら、我は喜んで石を差し出そう」


 ここですぐにわかったと言えられれば良いのだが。

 上手く力も発揮しきれずにグロリア・グレイに勝ってしまったことで、結果として自分の首を絞めることになったような気がして、俺は胸の辺りがもやもやしていた。

 彼女にも勝てなかったのに、かの竜に勝てるのかどうか。正直なところ、不安しかない。


「どうした。採掘せんのか」


 グロリア・グレイは首を傾げた。

 俺は軽く息を吐いて、


「いや、その。勿論努力はする。けど、かの竜を倒せるかどうかは」


「人間ごときに完璧を求めているわけではない。人間など元から信用してはおらん。一つの可能性として、期待しているだけのこと。うぬは人間にしては面白い。あの愚かな金色竜と自ら同化したり、勝てぬとわかって様々な攻撃を試したり。うぬは面白い味がした。この金色竜と懇意でなければ、もっと愛でたいところだがの」


 長い舌をぺろりと出して、グロリア・グレイは俺の方をイタズラっぽい目で見ていた。

 味見、されていたのか。どういう意味で喰おうとしていたのか、あまり聞き返したくはない。


「君は相変わらずだな……、グレイ。その様子では、呪いが解けたら色々と面倒なことばかりが起きそうだが。この世界のためにも、洞穴で命が尽きるのを待った方が良いのではないか」


 テラが俺の前にサッと割って入り、グロリア・グレイを牽制する。


「簡単に死ねるのであれば既に死んでおるわ。それよりうぬはその態度、どうにかならぬのか。視界に入るだけでイライラする」


「と……、とりあえず、ありがとう。採掘、させて貰うよ」


 俺は再度テラの前に出て、グロリア・グレイに一応の礼を言った。





■━■━■━■━■━■━■━■





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る