【23】洞穴の守護竜
101.いざ洞穴へ
いざ洞穴へ1
「面倒くせぇな」
ノエルはご機嫌斜めだった。
「思ったことを直ぐに口にするの、止めた方がいいわよ」
すかさずモニカが口を挟む。
「うるさいなぁ。これでも結構我慢してる方だと思うんだけど。なんでこう、面倒な方向にどんどん転がっていくかなぁ」
館に戻り気の置けない連中ばかりになると、ノエルの不満は爆発した。リビングのソファに大の字でひっくり返って足をバタバタさせ、頭をブンブン左右に振っている。ストレスが最高潮に達し、抑えきれなくなっているようだ。
「悪いな。付き合わせて」
申し訳ないと頭を下げたのだが、
「悪いと思っているなら事前に相談するとか、じっくり話してから決めるとか、あるだろうが! 勝手に自分で決めて、その通りに周りが動くのをさも当たり前のように思ってるんだろ? そういう救世主気取りが気に食わないって言ってんの! なんで洞穴なんかに潜らなきゃいけないんだよ。あそこがどんなに危険かわかってんの? 普通の魔物じゃないんだよ? 竜と戦って勝てるわけねぇじゃん! 馬鹿なの?」
ノエルは身体をぐんと起こして立ち上がり、畳みかけるように俺に食ってかかってきた。唾がバンバン飛び、顔にかかりそうになるのを必死に避ける。それがまた彼の怒りを増幅させ、見かねたモニカがノエルの身体を後ろから抱えて引っ込めても、ノエルの勢いは止まらなかった。
「お前は良いよ、竜と同化してるし、いざとなれば自分も竜になってガンガン戦えば良いんだからな。俺とモニカ、同行することになった塔の連中はそうもいかないんだよ。あー、石なんかどうでもいい! 行きたくない行きたくない、行きたくな――い!」
まるでちびっ子が駄々をこねているようにしか見えない。
塔にいたときは、『コイツ、本気でかの竜に挑もうとしてる。教えてやってください』なんてカッコイイセリフ吐いておいて、心の内では面倒臭いを連呼していたのだ。
まぁ、まだ子どもなんだし、仕方ないと言えば仕方ないか。
「そんなに行きたくないなら、ここで留守番してもらっても」
「馬ぁ鹿か! 誰が留守番なんかするか! 馬鹿にしやがって!」
いよいよ支離滅裂だ。
これには、部屋の隅で大人しく待機しているメイドのセラとルラも苦笑い。
けど、ノエルは自分の感情の行き場を失って、とにかく思いの丈をどこかにぶつけなければ我慢がならない様子だった。
「本ッ当ぉ――に碌な人間じゃないな。面倒な方向にどんどん突き進みやがって。塔の魔女の命令じゃなかったら、お前のことなんかとっくに見捨ててるんだからな!」
「わかってる。わかってるって。二人には本当に感謝してる。いろいろと調べてみた結果、かの竜と戦うためにはどうしても竜石が大量に必要だってわかったんだから仕方ないだろ。世界を救う一助になっていると思って、もうしばらく付き合ってくれよ。ノエルの力が必要なんだ」
パチンと手を合わせて頭を下げ、懇願してみる。
ノエルは何も言わない。言わずにじっと、俺の方を見ているようだ。
「頼む」
もう一声追加して恐る恐る顔を上げると、
「必要、なら……、協力しないこともない」
吐き出すように呟いたノエルは、心なしか顔を赤らめていた。
面倒くさいのはどっちの方だよ。思ったが、口には出さなかった。
「で、明日のいつ出発すんだよ」
気を取り直して尋ねてくるノエル。
「そうだな。夜が明けたら直ぐに出るつもりで。セラとルラも、バタバタするけど準備手伝ってくれるかな」
「かしこまりました」
双子の声が綺麗に重なって戻って来た。
彼女らは俺たちのこんなくだらないやりとりさえ、楽しんでいるようだった。
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