意外な結末4
「無礼な。いくら救世主という肩書きを持つお方であったとしても、協会に対して何という暴言を」
ドリスは怒りを露わにして吐き捨てた。
「落ち着くのじゃ、凌殿。そなたの言い分はよくわかった。儂が勝手に鑑定させて欲しいと言ったのじゃし、そなたの意見も何も聞かずに推し進めた儂の責任であることには間違いない。申し訳ないことをした」
マシュー翁が目を細め、額をシワだらけにして謝っている。
けど、違う。俺は、マシュー翁を責めたりは。
「救世主様……ではありませんよね?」
言ったのはモニカだった。
まさかそんなことはと、そこに居た全員がモニカに注目する。
「救世主様は、こんな言い方をしません。もっと優しくて、周囲を気遣ってくださって。私にはわかります。今、救世主様の身体を借りて話されているあなたは、一体、どなた様なのですか」
俺の口が、ニヤリと笑った。
再び、全ての目線が俺に注がれる。
「流石はモニカ嬢。凌のことを心底尊敬しているだけのことはある。その隣のノエル坊も、うすうす気が付いてはいたようだがな」
なんだよ、その“モニカ嬢”とか“ノエル坊”とか。
俺は二人をそんな風に呼んだりはしないぞ。
『文句は言うな』
言わない方がおかしい。俺の口で適当なこと喋りやがって。
『仕方がないだろう、モニカ嬢は君から見れば年上だろうが、私から見ればまだまだ若々しいのだから。ノエル坊に至っては、赤子と大差ないではないか』
は?
なんじゃそりゃ。
「残念ながら、私に名乗るべき名はない。私は常に
――テラ!
「金色竜……? まさか、凌殿の身体と同化した竜が、凌殿の身体を借りて話していると?」
余程の衝撃だったのか、マシュー翁はあんぐりと口を開けてよろめいた。ドリスとモニカが慌てて身体を支え、やっと立っている状態。大丈夫ですかと女性二人に気遣われても、マシュー翁は答えることもできず、目を白黒させている。
「力として竜を取り込んだというわけではない。共存させている……? そんなことが。一体、どうなっておるのじゃ」
「どうもこうも。私が眠りに就いていた間に、散々凌を弄んでくれたようだ。救世主などと持ち上げるのは結構、期待するのも結構。が、必要でもないのに力を見せろというのが気に食わない。私の力は見世物ではない。凌が渋々了承したのは、眠ったまま声の聞こえない私を心配してのこと。こうして私は再び目覚めたのだ、鑑定などという意味のないことをこれ以上続ける必要はない」
「じゃが……」
マシュー翁の口から言葉が漏れるのを、テラは聞き逃さなかった。
俺の右手がスッと挙がり、空を指さした。中庭を埋め尽くすほどの大きな魔法陣が、赤黒い光を帯びて出現している。次々に文字が刻まれていく、が……、俺が作っているものではない。俺はあんな、レグルの文字を刻んだ魔法陣を錬成できない。
「ま、魔法を使える竜など聞いたことが」
これまでにないような怯えた表情で、マシュー翁が呟く。
「そりゃそうだ。これは私の力ではない。凌の力を借りている。私自身は殆ど魔法を操れないが、魔法の知識はあるのでね。さぁて、発動するのは時間の問題。いい加減、鑑定を諦めるんだ。さもなくば、この施設を破壊する。一緒に消えてなくなるか、それとも凌の鑑定を諦めるか」
頭が正面を向いていて、上空の魔法陣の字が読めない。“施設の破壊”という文字がチラリと見えたのは間違いないが。
「わ、わかった。もう止めじゃ。中止。今後一切、凌殿の力は鑑定しない。本当に、申し訳ないことをした」
髪の毛のない頭を掻きむしり、マシュー翁は遂に白旗を上げた。
こうなっては、ドリスも他の鑑定士たちも従わざるを得ない。納得はできていないのだろう、ドリスは特に悔しそうに首を横に振っている。
パチンと俺が指を弾くと、魔法陣は跡形もなく消え去った。未完成の魔法陣を不慮の事故ではなく、自分の意思で消し去るなんて。実はテラのヤツ、凄い竜なのか。
わかればいいんだよとばかりに、上から目線で周囲を見渡す俺は、どんな風に見えているのだろうか。中庭の中心部からマシュー翁たちのそばに歩いて行くと、心なしか皆数歩後退った。
「戻るぞ」
俺の声で、テラが言った。
いつもの俺が言ったなら、素直に応じてくれただろうモニカが、なかなかハイと言わない。ノエルも複雑そうな顔をして、こっちを睨み付けている。
「どうした。戻ると言ったのだ。聞こえなかったか」
青ざめている、という言葉がしっくりくるのかもしれない。
俺らしくないセリフを吐く俺を、二人は明らかに、異常だと感じ取っているようだった。
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