和解3

「課題は、力のコントロールですかな」


 年寄りの男性の声が耳に入った。


「強大な力を手に入れてしまったとしても、肉体は“表”の非力な人間。うつわと力が釣り合っていないことから生じる、様々な違和感を徐々に取り除いていく必要がある。そもそも、竜との同化できる人間は稀なのだから、手探りなのはいか仕方ないじゃろうな。その文献にある過去の事例を参考に、少しでも力を発揮しやすい様サポートしていくのが側近のつとめ。力試しをして、本物かどうか見定めるなんて愚かなことは、側近かどうかに限らず、するべきではないこと。まだ若いとは言え、認められた力を持っているのだから、キッチリと自分の役割を肝に銘じねばならんの」


「はい……」


 しょぼくれたノエルの返事。


「で、手当は終わりましたかの、モニカ」


「はい。いくつかの臓器にかなりの損傷がありましたが、なんとか。完全に回復するまでにはもう少し時間がかかりそうです」


「休養らしい休養も与えてやることができないのじゃ。あとは本人の回復力に任せるしかあるまい。自然治癒力を高める魔法を教えてやるといい。このままでは戦う度に瀕死の重傷を負いかねない」


「わかっています」


「ノエルも、彼の懐の大きさに気が付いたところじゃろう。ディアナ様が何故お前を宛がったのか、しっかりと考えるのだぞ」


「はい、マシュー……」


 随分と絞られたのだろう、ノエルの声に覇気はない。

 耳元で更に別の声。今度はモニカとは別の女性だ。


「本当は、魔法ではなく手術などしてしっかり直すべきだと思うわ。けど、残念ながら彼の立場上、それは許されない。時間がないの。今回のことは仕方なかったにしても、きちんと側に居て支えなければ、役目を果たしたとは言えないわね」


「その……通りです。私が、しっかりしなければいけなかったのに」


「ノエルったら、何を言っても通じないんだもの。そこは救世主の彼もわかっていたのだと思うわ。モニカはあまり自分を責めずに、前を見るように心がけて」


「はい……」


 参ったな。

 俺が無茶をしたせいで、二人とも相当怒られたに違いない。

 テラの代わり、新しい相棒としてディアナが無理やり寄越したとはいえ、彼らには何の選択権もないんだから、もっと俺が気を遣うべきだったのに。

 テラの声が聞こえないことを言い訳にして、身体が限界値を超えるまで戦ってしまった。ヤバいと思ったら後ろに下がる勇気も必要なのかもしれない。そうしないと、俺じゃない誰かが迷惑を被ってしまうらしい。

 これが“救世主”って肩書きの弊害か。

 面倒だな。

 妙な期待だけで済んでいた頃はまだ気が楽だったのかもしれない。うざったい、重苦しいと感じたら悪態を吐けば良かった。

 ところが今はそうはいかない。テラと同化して戦っていたことが原因か、変な石を埋め込まれ完全に“救世主”に祭り上げられた。自分の望む未来ではなかったのは間違いないが、今更逃げようとは思わない。思わないが……、こんな風に二人が落胆するのは面白くない。


「わかっていて彼は、術者であるノエルを直接的に攻撃しようとはしなかった。それはお主を気遣ってのこと。これで彼を全力で守ろうという覚悟ができただろう。今まで出会ってきたどの術者よりも、彼はお主のことを人として見てくれたのだから。のう、救世主殿」


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