分離不能4

「こちらです」


 男が言った。

 眩しい光は、ランタンから発せられていた。白く鋭い光に目がくらみ、思わず数歩後退して腕で庇を作った。


「半竜人だとは思うのですが、今まで見たどのタイプとも違っていて」


 男が数人、それから女。赤い丈長のスカートが目に入る。


「新手ではないかと? 私にそれが判別できるかな」


 聞き覚えのある艶っぽい声。


「ディ……ア、ナ……?」


 目を細め、名を呼んでみる。

 ランタンの明かりの向こうから黒い肌の女がヌッと顔を突き出してくる。


「凌?」


 やった!

 俺は思わず鉄格子に突撃し、格子の隙間から手を伸ばした。と言っても、手首が通っただけでそっから先は通らなかったのだが、格子に顔を押しつけ、出してくれと猛烈にアピールする。

 ディアナは俺の行動に驚いて思い切り仰け反り、転びそうになったのを後ろで男数人がサッと押さえていた。


「なんだその格好は。いつからそんな化け物じみた姿に」


 体勢を整えながら、ディアナは俺に渋い顔を向けた。

 化け物とは随分な言い方だが、そんなことより、認識してもらえた嬉しさが勝ってしまい、ニヤニヤが止まらない。


「テラとの同化が、解けない。どうやったら分離できる?」


「テラ? 同化? まさかお前、竜と同化していたのか」


「当たり。で、どうしたらいい?」


 嗚呼……と、ディアナは頭を押さえながら大きくため息を吐いた。


「竜と一体化して戦っている干渉者が居る噂は、私の耳にも届いていた。が、そうか、同化か。あの竜にそんな芸当ができたとはねぇ。美幸のときはそんなこと、一切しなかったのに。……にしても、凄まじい姿だな。どうやったらこんなことになるのやら」


「容姿のことはどうでも良い。それより、分離」


「あ、ああ。分離、ねぇ。そういう戦い方をする干渉者を見たのは、実は初めてでね。遙か昔には、そういうことができる干渉者と竜が居たという話を聞いたことはある。相性というモノがあるだろう。身体が互いを受け入れる体勢になっていなければ、こんなことは決してできないのだ。いくら竜を従えているといっても、やはり竜は竜でしかない。お前と竜は余程相性が良かったわけだ。それを知っていたから、お前の竜はお前の身体に入り込んだ。これが初めてではあるまい?」


 俺は何度もうなずいた。


「であれば、そのときはどうやって分離していたのだ」


「それは、その。テラの方から、戦いが終わったらスッと離れる感じで」


「できないのか」


「できないから、頼んでる」


 ハァ……と、また深くため息を吐くディアナ。

 他に頼める人が居ない。せっかく塔の魔女が来たんだから、ディアナに頼まないで誰に頼むんだという勢いで、俺はディアナに目力を送り続ける。


「一つ聞きたいが、お前は魔法でどこから転移してきた?」


 気のせいか、ディアナの顔が険しい。


「“表”から。リザードマンが“向こう”に現れて、倒しようがないから“こっち”に連れてきた」


「なるほど。お前ともう一人半竜人が居たと、報告を受けている。で、同化はいつ」


「“表”で。テラを“向こう”に呼んで、そこで同化した。人間の力じゃ押さえられなかったから、竜化して押さえつけたんだ」


「で、そのまま飛んで来たと」


 そこまで言うと、ディアナは頭を押さえたまま背中を見せ、同行の数人に何やら耳打ちした。男たちは驚いたような顔をして、そのあと俺に同情の目を向けてくる。


「無理だな」


 振り返るなり、ディアナが言う。


「引き剥がすのは、無理だ」


 ディアナは厳しい顔をして、ピシャリと言い放った。

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