分離不能2
ざわめきが起こる。
「どういうことだ、凌。何故かの竜の使いを庇う」
ライルが言うのはもっともだ。けど。
「は……話せば、長くなる。とにかく攻撃は止めてくれ。お願いだ」
畜生。話の整合性がとれなくなる。明らかに俺を攻撃しようとしていたリザードマンを、俺が庇うなんて。
けど。けどやっぱり、中身が古賀だって言うなら。それが事実かどうか確認取れない限り、倒すことはできない。
「ククク……」
リザードマンが背後で笑い出す。
「甘イな、来澄。かの竜ヲ倒そうとスるならバ、もっと冷酷ニなルべきだ。身体ヲ張ッテここマで俺ヲ引っ張っテきタことに関しテハ、賞賛しヨう。しかシ、お前ハ重大なミスを犯シた。そレに気付いタところデ、取り返シがつかナいことサエ理解しテいなイ」
「ど……どういう、ことだ」
恐る恐る半分振り向くと、リザードマンは牙をむき出しにしてニカッと笑った。
「俺はいつデも“表”ニ戻れル。そして古賀明とシて日常ニ戻ることモ可能ダ。けど、お前ハどうかな」
何を言ってる。
おい。
――リザードマンの身体が、にわかに光り始めた。足元に魔法陣。転移魔法か。
クソッ。
振り向き、阻止しようと思ったがもう遅い。ヤツの身体はもう、殆ど消えかけていた。
「捕らえろ!」
ライルの合図。第二部隊の歩兵が凄まじい勢いで駆け寄ってくる。魔法陣の光が消える。辛うじて見えていたリザードマンのシルエットをすり抜け、数人が勢いそのままに俺の方に――。
気が付くと俺は、仰向けになって地面に貼り付けられていた。腕の上にも足の上にも人が乗っかり、身動きが取れない。靴底で踏まれ、膝を載せられ、何人もが全体重で押さえつけてくる。羽の付け根が痛む。胸元には杖や銃が突きつけられる。
何が起きた。
理解できずに空を見上げる俺の視界には、厳しい顔の歩兵たちが。その合間からゆっくりと現れたのは、翼竜の背から降りたライルだった。
「本当に、“表の干渉者・凌”なのか?」
腰を下ろし、ライルは俺の顔をまじまじと覗き込んだ。
「当たり前だろ」
「証拠は。お前があのときの少年だという証拠は」
「ハァ?」
「凌は、我々に協力すると約束した。ディアナ様寵愛の干渉者が、かの竜の使いである半竜人を逃すとは考えにくい。つまりお前は彼らの仲間我々の敵。そう判断する」
冗談――。
上半身に力を入れ、起き上がろうとした。途端に、突きつけられた杖の先から雷がほとばしる。電流が身体の隅々まで流れ、胸が締め付けられるような痛みに襲われる。電流は俺の身体を押さえつける歩兵たちにも少し伝わっているのか、彼らも痛みに耐えるような顔をしている。
何だ、何なんだ。
これじゃまるで。
電流が収まる。苦しい。魔法でやられることなんて殆どなかった手前、こんなに苦しいなんて初めて知った。竜化していたから堪えられた、と考えて良いのか。畜生。最悪だ。
早く竜化を解かないと。テラと分離しなければ。
「しぶといな」
ライルはそう言って、俺のあごに手を当てた。首筋まで竜化して、歯の一部が牙のように鋭くなっているのまで、まじまじと観察している。それから杖を持つ術者に目で合図。次の魔法が来る。
ドンと、激しい衝撃。胸の真上で何かが破裂した。
痛い、どころの話ではない。身体が粉々になってしまったのではないかと思えるほどの痛み。生身だったら、肋骨が砕けていたかもしれない。なんて、なんて魔法だ。
「ガハッ」
胃液が逆流し、口から出た。
ヤバい。相当ヤバい。
意識が、朦朧と。
テラ、分離しろ。早く。
イメージはできてる。俺は元の姿になって、お前が俺を見下ろしてる。そういう状態になれば、きっと信じてもらえる。俺が、あの日の凌だって。
「
誰かが言う。
「いや。こんな半竜人は初めてだ。かの竜が放った新手であれば、今後の対策を考える良いサンプルになるはず。このまま捕らえて塔へ運ぶ」
え? サ、サンプル?
嘘だろ。
俺は、只の。
クソッ。
指すら、動かない……。
・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・
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