打つ手なし3
できるのかどうか。やってみなくちゃわからない。
リザードマンの中に閉じ込められた――という表現が適切なのかどうかさえ疑問だが、古賀を引きずり出すイメージで。
魔法陣が金色に光る。
美桜の魔法で動けないリザードマンの身体が、一瞬ビクンと大きく動いた。
「イケたか?」
以前同じような魔法をかけられた張本人、芝山が魔法陣の文字を読み取って拳を強く握る。
しかし。
変化がない。
リザードマンがニヤリと笑う。
「そんナ子供だましノ魔法でハ引きはがセない。俺自身ガ古賀明でアリ、かの竜ノ使いなのダかラ」
嘘、だろ。
俺が崩れ落ちそうになっているのを陣は見ていたらしい。
「気にするな、凌。僕は最初からこんなことだろうと思っていた」
丁度そこで美桜の魔法が切れた。
陣は大きく剣を振り、リザードマンに斬りかかった。サッと避けられた剣先がキャスター付きのホワイトボードに当たった。バンと大きな音を立ててボードがひっくり返る。その上をリザードマンはわざとらしく踏んで歩き、ボードのあちこちをボコボコに変形させていく。
ふいにコンコンと、会議室のドアをノックする音が。
「ヤバい」
芝山は慌ててドアに駆け寄り、向こう側の音を聞いた。
「いえ。大丈夫です。ちょっと、トラブルがあって」
必死に弁明する芝山。
ガチャガチャと取っ手を回し入ってこようとするのを、内側から鍵を掛け、体重をかけて押さえている。
「鍵、持ってくるらしい。ヤバい。どうにか……!」
俺も慌ててドアに駆け寄り、芝山の手助けをする。
外から鍵を開けようとしている。公民館事務室のじいさんたちがなにやら言いながらドンドンとドアを叩いている。
会議用テーブルは真っ二つ。折りたたみ椅子はひしゃげ、ホワイトボードはボッコボコ。剣を振り回したときに付いたのか、壁はあちこち傷だらけ。こんな現場を一般人のじいさんたちが見たらどう思うか。
二人で背中をドアに押しつけ、絶対に開けられて堪るかと歯を食いしばる。
あっちもこっちも、何でいつもこう、ギリギリなんだ。
「何ヲしていル」
何をじゃねぇ!
リザードマンが俺たちに気が付いて近寄ってくる。足元の椅子や机の残骸なんか全然関係なしに、ズンズンズンズン進んでくる。
「お前の相手は僕だ! 逃げるな!」
追いかける陣を尻尾で払う。はじき飛ばされ、長机の角に頭を打ち付けられた陣。打ち所が悪かったか、そのまま意識を失い、パンと消えた。
陣も居ない。攻撃もできない。リザードマンが迫る。じいさんたちがドアをこじ開けようとする。
絶体絶命というのはこういうことを言うのか。
せめて、せめて後ろのじいさんたちだけでもどうにかできないのか。
悩んでいるウチに、リザードマンは真ん前まで来ていた。
爬虫類の目が俺と芝山を睨み付けてくる。槍を右手に持ち替え、左手で芝山の胸元を掴み――投げた。ウワッと声を上げて転がる芝山。眼鏡が飛び、転がる音。なんてことをと芝山に目を向けた隙に、ヤツは俺の胸ぐらを掴んだ。ぐるんと回転する景色、背中に強い衝撃。会議室のドアが無防備に。このままじゃ。
「ダメッ!」
美桜は叫んで魔法を放とうとした。が、間に合わなかった。
俺は思わず目をつむった。
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